確かな仕事ができるようになる

 

 ≪ わずか六年ちょっとの修業で、死ぬまでの間、おまんまがいただいて

いけるなんていうのは、考えてみれば、ほんとに安い修業ですし、短い修業だったと思います ≫ 神田鶴八鮨話(新潮文庫)より

 

修行という言葉は、会社勤めをしている人からすると、ちょっと縁遠い言葉に思うかも知れません。コックさんや板前さん、ヘアーサロンのスタイリストさんのような職人さん的な仕事をする人に当てはまる言葉であって、サラリーマンの方にはあまりピンとくる言葉ではありません。

 しかしながら、会社勤めをされている方にも、このような修業の時代があっても良いと思います。修業という言葉とは違いますが、営業ならば、場の雰囲気を盛り上げるトーク術、取引先の本音の探り方、提案書の書き方、プレゼンの仕方といった、営業のイロハのイから基本を徹底的に叩き込む時期です。経理の仕事なら経理の仕事で、伝票や通帳残高のチェック、資金繰りを含めた月次業務のスケジュール管理、月次決算のまとめ方、各勘定の残高チェック、など経理業務の基礎を一からシッカリとマスターする期間です。

何処の会社に行っても通用する確かな仕事ができる「プロの技(スキル)」を身につけるための時期があった方が、今の時代のビジネスマンには望ましいと思います。

 

何故ならば、入社して数年たつと、仕事を一通り覚えたレベルで止まってしまう人を多く見かけるからです。自分のやり方、スタイルで何とか日々の仕事をやっていますが、仕事のやり方が“我流のレベル”のままです。

本人は、一人前の仕事ができると思っているかもしれませんが、ビジネスマンとしてはまだまだ半人前です。取り合えず、今の担当業務では大きな問題はありません。上司から見ると、最低限求められる仕事の内容が、一応頭に入っているくらいであって、安心して新しい仕事を任せられるかというと、とても眼を離せるレベルではありません。“仕事ができる”という言葉とはちょっと違います。その仕事に関わる常識レベルの知識が足りない。指示されないと動けない。言われたことしか出来ない。自分で状況を判断して動くことが出来ない人達です。

彼らに共通することは、仕事の基本、そのイロハが十分に身についていないことです。基本的なことをシッカリと理解せず、仕事の基礎を中途半端のままにして仕事をしてきたからです。だから、いつまでたっても彼らは自分の仕事に自信が持てません。それは、仕事の軸になる基本がシッカリ固まっていないからだと思います。それでは、今後の成長は期待できないでしょう。  

 

多くの中小企業の社員研修は未だにOJTが主流です。昔ながらの先輩の背中を見て仕事を覚える。上司に叱られながら仕事を覚えるというのがリアルな現実です。そこで、上から叱られないように、周りに迷惑をかけないように、自分なりに何とか考え、仕事を覚えていくのが多くの人のOJTの実態でしょう。そのような感じだから、叱られたり、注意されないようになれば、それで仕事ができるようになったと勘違いしてしまうのです。

それは、可も無く不可も無い、無難なやり方でしかありません。周りの手本になるようなやり方でも無いように思います。それでは、仕事の基本をマスターしたとは言えません。 

ところが、ほとんどの人がそのレベルで満足してしまいます。誰も「見違えるようになった」と、上司が関心するまでスキルアップしようとは思いません。だから、先ほどお話した中途半端なベテランになってしまうのです。

 

長い目でみると、会社勤めをする人でも、何処の会社でも即戦力になれる“プロの仕事ができる”ようになりたいものです。「プロの技(スキル)を身につける。それは、職人さんの世界であってもビジネスの世界でも変わりはないと思います。それが、冒頭の鮨職人さんの話に他なりません。 

そのためには「仕事の基本(スキル)」をシッカリとマスターすることが不可欠です。

あらゆる仕事には意味があります。「どうして、こういうやり方をするのか」その理由があります。「何故こういう手順を踏まなければいけないのか」その訳があります。

 

事務仕事でいうと「正確に、一発でできる」ために前もって資料を揃えるという段取りや準備作業があります。「正確を期す」間違いのないように、念のためにもう一度確かめるということもあるでしょう。

 

いずれにしても、仕事ができる人は、このような手間を惜しみません。細かな注意事項がシッカリと頭に入っています。彼らは、それらの意味や重要性を良くわかっています。だから間違いやミスをしないのです。

 

頭の中に自身の“仕事のチェックリスト”を創ること。それが「仕事の基本」をシッカリとマスターするコツだと思います。

 

 人生には辛抱の為所があります。与えられた仕事の基礎トレーニングを十分に積むべき時期があっても良いと思います。将来のことを考えれば、多少手間が掛かったり、面倒なことでも確かな仕事のやり方”を身につけた方が得策です。「仕事とはこういうものだ」と言えるように、シビアな仕事のやり方に早く慣れてしまった方が良いのです。そのタイミングこそビジネスマンにとっての修行の時代ではないでしょうか。

 

 ( 平成27420日 )       Ⓒ 公認会計士 井出 事務所

 

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