スマホ時代の商売感覚(その3)お客様への情報発信も商品のひとつ

前回・前々回に引き続き「スマホ時代の商売感覚」というタイトルでスピーチをさせていただいた時の話です。前回は、個人商店の問題点について書きました。その次にお話させていただいたのは、北千住にある「杉本商店」というマスコミでも多く取り上げられる有名な八百屋さんのことです。わざわざ電車賃を使ってまで、此処の野菜をお買い求めに来るお客様も多いお店です。

何故ならば、このお店は、近くのスーパーでは、お目にかかれないような「美味しい野菜」を沢山取り揃えているからです。店主の杉本さん、曰く「店頭に並んでいるものは全部当たり(美味しい)。外れは無い。そうでなければ(商売は)駄目」とも言い切ります。買い物をしたことの無いお父さんがお母さんに「トマトを買ってきて」と頼まれて、うち(当店)で買ったものが美味しくないようでは商売にならない。“質の良い・美味しい野菜が揃っていて当たり前。そうでないものは置かない。質のよろしくない商品は一切仕入れない”そういったポリシーを杉本さんは持っています。 

実際、このお店の品物は鮮度が違います。キャベツひとつをとっても、月によって産地は異なりますし、同じ月でも、上旬・中旬・下旬で、葉の厚みや柔らかさが違います。だからこそ、杉本さんは「シャキシャキとしたキャベツの瑞々しさ。きゅうりの風味がシッカリとしたきゅうり。果汁たっぷりの旨味の詰まったトマト」といった“旬の野菜の美味しさをお客様に伝えることを忘れません。

買い物客から聞かれれば、旬の野菜の美味しい食べ方や調理法まで話しています。「瑞々しさ・甘み」といった、素材そのものの風味や旨みが詰まった野菜を厳選して仕入れているからこそ出来ることです。

 

そこで、このお店の商売繁盛の秘訣は何処にあるのかと考えてみました。「売り」「強み」といっても良いでしょう。そのひとつは「多少、値が張っても質の良い、美味しい野菜しか置かない。安売りはしない」そういった杉本さんの“野菜へのこだわり”が商売のベースになっていることです。

商品力のある野菜とは、そのまま生で食べても美味しい野菜です。キャベツやトマト・きゅうりのような生野菜でも、素材そのものの旨味がシッカリとしていれば、ドレッシングをかけなくても、少しお塩ををふるだけで美味しく食べることが出来ます。

 「杉本商店」に行けば間違いなく美味しい野菜が手に入る。“ここで買えば間違いが無い”という確かな品揃えをしている。それをお目当てにしてくるお客様が多い。店頭には、蕪(かぶ)やきゅうり・大根・人参・白菜のような自家製の漬物も並んでいます。正に“野菜のセレクト・ショップ”としての信頼をお客様から得ている証ではないでしょうか。

 

 二つ目は、杉本さんが野菜という食品を売っているのではなく「野菜のプロ」として「美味しい野菜の選び方・食べ方」という知識や情報を伝えるといった知恵やノウハウの部分にあると思います。

確かに、実際の商材としては「旬の野菜・美味しい野菜」であるかもしれません。しかし、それと同じくらい大切なことは“野菜の価値を伝える手間を惜しまない”ことです。自分が食べて美味しいと思うものを、お客様にも知っていただきたい。そういう情報発信も商品のひとつです。この店のご主人には、そういった野菜の価値へのこだわりがあります。

 

野菜という商品をお買い求めいただくには、まずお客様に「野菜の美味しさ」を知っていただくことが欠かせません。一つ一つの野菜が美味しい食べ物であることを伝える。わかっていただくことが肝心です。

 

そのためには、言葉で伝えるよりも、実際に召し上がっていただくことが一番です。生で食べる野菜なら、ちょっとかじってもらえば、鮮度の高いものは青臭さなんてまったく感じません。また、トウモロコシやキヌカツギのようなものは予め蒸かして並べておく。ズッキーニのように馴染みの薄いものだったらバター炒めにして、とにかく試食していただく。また、小布施の丸茄子のような珍しい野菜を販売する際には、店頭での試食販売に特に力を入れています。

 

要するに、杉本商店のもうひとつのビジネスの強み・本質は、野菜という商品・物を売ろうとするのではなく「野菜の美味しさ」を店頭から欠かさずに発信していることだと思います。

 無論、こういったお客様へのお声掛けが出来るのも、杉本さんが「プロの目利き」の力を持っているからこそできることを忘れてはなりません。

 

拙稿「スマホ時代の商売感覚(その1)昨今のお客様の気質」でも書きましたが、今時のお客様は、産地や作り方のこだわり、商品の質、美味しさといった点に高い感心を持っています。情報に敏感な買い物客なのです。ですから、その伝え方やその内容次第で、そのリアクションが違ってきます。

その商品にまつわるエピソードやお客様の聞きたい話も商品の一部なのです。これからは、このようなお客様の気質に合わせて商品に関わる情報をドンドンお客様にオープンにしていくような商売のやり方に変えていくべきではないでしょうか。

 

( 平成29317日 )       Ⓒ 公認会計士 井出 事務所   

 

▶ 関連項目:スマホ時代の商売感覚(昨今のお客様気質)

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