(トップの) ハッキリしていない考えは伝わらない

 

長い間、研修やセミナーの講師として、人前でお話しをさせていただいていますが、今更ながら時々思い出すことがあります。それは、産能大の総合研究所に入所した時に、ある先輩講師からいただいた言葉です。

 

 

 

≪ 井出さん。貴方はこれから人前で話をする仕事に就くわけですが、この仕事の本質・ポイントは、話が上手いとか下手ということではありません。

この仕事をする時に忘れてはいけないことがあります。

それは、自身が「良くわかっていること」しか伝わらないということです。自分の中で「アヤフヤなこと・曖昧なこと」は伝わらないのです。良く理解していることは相手もその内容や意味を受け取ってくれます。ところが「うろ覚えで良くわかっていないこと」や「理解が十分でないこと・考えの浅いこと」は、聞き手にも、そのことが伝わってしまいます。だから、相手も良くわからないのです。

要するに、自分が理解しているレベルのことだけが伝えられる内容です。それ以上のことは聞き手には伝えられません。だから、もしアンケートで「わかりにくい」と評価されたなら、それは話したテーマについての自分の理解が足りないと思ってください。≫ という内容の話でした。

 

  

 

これまで本コラムの中でも「喋る・話す・伝える・告げる」といった、ビジネス・シーンにおける伝え方の難しさについて書いてきました。

「言ったことが(下に)伝わらない」のは、多くの上長の方にとっての大きな悩みだと思います。しかしながら、コンサルや営業の現場でよく見かけることは、まさに上記の先輩講師の言葉が示す現実です。

 「言葉が足りない。説明不足。説得力に欠ける話」といった伝え手側の問題に他なりません。だから、いつまでたっても“伝えたいこと”が社内の共通認識にならないのです。    

 

 

 

 一例を挙げるなら、トップが会社の将来像を語る際に「戦略」とか「改革」という言葉を口にします。ところが、多くの場合、社長さんは、それらの言葉を繰り返し語るだけで、その背景や狙い、具体的な内容をハッキリと伝えていません。一番大切な話が抜け落ちています。そこに気付かないまま話を進めるので聞き手からすると、説得力のある話として聞こえてきません。現場に発破をかけるための掛け声で終わっています。

 ここに、戦略・改革という言葉が、経営と現場の共通言語として通用しない最大の理由があります。

 

 このような意味のハッキリしない「曖昧言語」が飛び交っている会社では物事が前に進みません。実際に仕事として進めるべき、その肝心な内容や意味が、いつまでたってもお互いの共通認識にならないからです。

 

例えば、今ある会社で「営業力強化」という営業部門の改革のテーマがあったとしましょう。話の筋としては、本来「今の営業やり方の何処に問題があるのか。どうして改善を要すべきなのか。今後、営業の仕事のやり方をどのように変えるのか」といった流れの中で、戦略・改革という言葉を語るべきです。

「これまでの担当者個人の営業トークに頼った営業スタイルはもう限界に来ている。そこで、当社の営業のノウハウを固め、各人の営業スキルのアップにつなげるためにも、提案書のような文書を使った営業スタイルに変える」という風に伝えれば、何も戦略・改革という言葉を使わなくても話は通じます。

 

上長の言葉が掛け声にしかならないのは、それら言葉の意味を、自身が良く理解しないまま使っているからです。当社の社員はレベルが低いと嘆く前に、どのように伝えれば、会社としてやるべきことが、部下の頭にスーッと入っていくのか。どのような話し方をすれば彼らは理解してくれるのか。その方法を良く考えるのも経営の仕事の一部だと思います。いつの時代も、優れたリーダーは、自身の想いや考えをわかりやすく他人に伝えるスキルを身につけています。

 

 

 

 ( 平成28830日 )        Ⓒ 公認会計士 井出 事務所

 

 

 

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