プロの経営者に求められる数字感覚

 

中小企業の経営者で、経理のことは良くわからないが、会社の数字に妙に強いという方を時々お見かけします。彼らは、常識的な発想から経営に関わる数字の意味を理解し、感覚的にその良し悪しのチェックができる人たちです。 例えば、売上が増えたからといって安心するのではなく、その代金はキチッと回収できているのか。従来通りの利幅(利益率)がちゃんとキープできているのかといった、当たり前のことがチェックできます。

 

また、売上の増加分についても、新規の取引先の数字なのか、既存の取引先なのか。新商品・新製品・新サービスによるものか、既存の商品なのかという視点で分析し、経営の狙い(戦略)が当たっているかどうかを確認します。

要は、会社経営の数字のツボを心得ているのです。会社の数字に強い人は、そのチェックポイントがシッカリと頭に入っているとも言えるでしょう。

経営に関わる数字への意識の高さは優れたビジネス感覚のひとつだと思います。

 

しかしながら、残念なことに、彼らのように常に数字という視点で(会社)経営の良し悪しを理解し、チェックできるようなプロの経営者は少ないのも現実です。ある意味、経営の役割は、会社の成長・採算性の向上にあります。

会社は公共事業ではありません。何かしらの商売をして、お金を稼ぎ、儲けを出せる仕組みを創らなければ会社は存続することができません。

そう考えると、経営者の数字感覚はとても大切なことだと思います。採算性が取れない会社では生き残ることはできないのです。「丼勘定」という言葉がありますが、競争が厳しい今の時代では、大雑把な経営手法では決して儲かる会社、成長する企業にはならないでしょう。

 

ともすると多くの経営者は、未だに“売上げという数字さえ伸びていれば会社は成長している”と錯覚をしています。“営業がもっと頑張れば業績が良くなる”的な安易な考え方を持っています。

このことからもわかるように、売上という数字で経営を見ることはできても、利益や利益率という視点から経営を捉えられる方はそう多くいらっしゃらないのが現実です。同じように、借入金の多寡から財政状態・財務状況の健全性という観点から経営状況を適正に判断できる人も少ないと思います。

  

当事務所では「経営数値や決算書の読み方」に関わる研修やセミナーを実施しています。その冒頭でいつもお話しするのは、健康診断の際の「血液検査」のことです。血圧は、上が140・下が80を超えていると高い。γ‐GTP70以上だと肝機能が弱っている。尿酸値が7を超えれば痛風になりやすい。といったように、血液検査のデータを見れば、現在の健康状態あるいは今後発症する傾向のある病気がわかります。

 

実は、経営数値にも全く同じことが当てはまります。決算書の数字を、数年分通して見ると、会社が確実に成長しているといえるのか。何かしらの問題点があるのか。それがどこの部署、仕事にあるのかということが見えてきます。 まさに、毎年一度、決算書を分析して、そのデータの良し悪しをチェックすることは、会社経営の定期健診といえます。 

 

わざわざ、そんなことをしなくても「利益率が低い。銀行からの借入金が多い。売掛金の回収が遅れている。在庫が多い」といったことは重々わかっている。金融機関から耳が痛くなるほど聞いているという社長さんがいます。であるならば、血液検査後の診療と同じようにその数値を改善していくような手を打たなければ、会社の業績はどうにもなりません。現状の問題点を明らかにし解決する。それこそが経営の仕事ではないでしょうか。

 

 メーカーであるならば、高い技術力を持っていなければ、売価の高い高品質の製品を造ることは出来ません。その反面、コストのサイドから見ると、コスト管理力・コストダウンの推進力の差は、粗利(利幅)に直結する問題です。

工場の技術力、生産計画をたたき台にした生産管理や納期管理力、品質管理力・生産効率の改善のような現場の実行力の差が「製造原価」になって表れてくるからです。

 業種が変わっても同じことが言えます。それが、IT企業でなら「高受注価額」や「開発コスト」という言葉に替わるだけのことです。開発現場の開発スピード・開発効率といった開発技術・プロジェクト管理力の違いによって、会社の利益は違ってきます。このような社内の管理体制の優劣がコストに直結することを忘れてはなりません。

 

社長がいくら優れた数字感覚を持っていても、現場任せ・担当者任せの人海戦術では経営数値は良い方向に改善しません。っと速く。ちゃんとやる。シッカリやれ」といった抽象的な掛け声を現場に掛けるだけでは、何も変わらないのです。

 会社の収益性を改善するには、経営数値の感覚を感覚のレベルで終わらせることなく、明確な経営判断に結び付けることが欠かせません。

現状の数値の意味を、具体的な現場の管理体制や仕事のやり方に落とし込む。理詰めで動く実行力。それこそがプロの経営者に求められる力だと思います。

 

( 平成29211日 )        Ⓒ 公認会計士 井出 事務所

 

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