三つの採用基準

  

 ちょうど一年ほど前の話ですが、ある食品会社(非上場・年商50億超)の総務部長さんと話す機会がありました。(以下、仮名で山田さんとします)

 今年は新卒の採用が上手くいかなかったという話でした。大卒(面接者の約半数)を含め30人ほど面接したが、結局全員採用に至らなかったとの事。

 

山田さんには、長年の経験値から学んだ独自の採用基準があります。要は、いつまでたってもバイト感覚の抜けないような人ではなく、将来的には、何処の会社に移っても通用する一人前の仕事の出来る人材の発見法です。

  

その話がちょっと面白かったので紹介してみたいと思います。彼曰く、仕事の伸び白は、能力よりもむしろ本人の性格的なことの方に大きな影響がある。だから、面接ではその点を重点的に看るそうです。

 

特に、以下の3点に注目するとのことでした。ひとつは、性格が素直であること。二つ目は、几帳面なところがあること。三つ目は、できることならという条件付で、気配りができるタイプであること。

  ウォーク・マンやスマホ歩きが当たり前の昨今は、何でもマイペースの人が多く、周囲のことが目に入らない、無頓着な人が大勢います。この3つの条件を満たす人は、そう多くは居ないそうです。

 以下、この山田さん流の採用基準について、もう少し詳しくお伝えしたいと思います。

  

その一つ目は「素直さ」です。会社はチーム・ワークでビジネスをする仕組みなので、コミュニケーションとか協調性が仕事に求められます。その基本になるのが、他人の話にキチンと耳を傾ける。相手の話をシッカリ聴こうとするとする態度だと、山田さんは考えています。

というのも、現場でよく見掛ける「不注意・不手際・手違い・行き違い」と言ったことは、上司の注意や連絡事項をシッカリと頭に入れていないからです。

 

ウチの会社にも「上の指示を守らない。勝手な動きをする。報告や連絡を怠る」ような、何でもマイペース型の社員が少なからずいる。彼らに共通する点は、上の話を聞いているようで聴いていない。聞き流している所がある。また、注意をしてもハアハアと生返事ばかりでキチンと話を聞こうとしないこともある。だから、同じようなミスを繰り返している。責任感の問題ともいえるが、上の注意を素直に受入れようとする気持ちが足りないとしか思えない。

  

自分勝手に動こうとするタイプは、自分一人だけで仕事をしていると思っている。そこに、自身が職場の一員であることが頭にない。だから、仕事の手順を一通りの覚えただけのレベルで一人前になったと思い込んでしまうのです。上司の話を勝手にスルーするような人では、いつまでたっても目が離せません。それでは安心して仕事を任せられるようにはならないからです。

 

正社員として採用する基本は、誠実に仕事に取組む姿勢であり、正社員としての自覚を持てることです。山田さんは、そのベースになるのは、人間的な素直さだと思っていると話してくれました。

  

二つ目は「几帳面さ」です。その言葉が面白いなと思ったので山田さんに「どうしてですか」と少し突っ込んでみました。彼、曰く、よく採用担当者は、採用基準の一番目は真面目な人柄と言います。しかし、何を以って真面目というのだろうか。そこが難しい。一つ目の「素直さ」ということも大切だが、上から言われたことだけをやっていれば、それで良いのか。それだけで一人前の仕事が出来るようになるのかというと、そういう訳でもない。

 

 ただのイエス・マン、何でもかんでもイエス・マンだけでも困ってしまいます。言われれば動くのではなく、言われなくても動くようにならなければ、到底一人前とは言えないでしょう。

 

実際、今の社員をみていると、いつも「わかりました」と返事だけは良いが、すぐに動こうとしない。自分の頭で考えて仕事をようとしない人がいる。あるいは、直ぐに「ハイ」と答えるが何度も同じ事を聞き返している人もいる。正社員になる人が、このようでは上司も会社も困ってしまいます。素直さは会社人として求められることですが、それだけではビジネスマンとしての成長は望めません。

  

そこで、山田さんが気付いたことが「几帳面」という言葉です。会社のキーマンとして動いている人を見ていると、

 皆、いい加減なことはしない。言われたことを確実にやるタイプの人です。

 

彼らの仕事のやり方に共通することは「時間や期日をキチンと守る。メモすることを忘れない。今週のスケジュールがシッカリと頭に入れている。仕事の段取りを欠かさない。仕事を溜めない、先送り後回しにしない」といった習慣が身についていることです。これらは全て、仕事の基本、当たり前のことですが、残念なことに、皆が皆、それができていないのも現実です。

 

彼、曰く、こういった仕事のやり方をする人は真面目というよりも、むしろ「几帳面」という言葉の方が当てはまると話してくれました。仕事は、基本的なことを忘れない。それを確実に実行する。そこが大切だ。それが積み重なって、長い間に仕事のレベルや実行力に差がついてしまう。信頼される仕事が出来る人、将来のリーダーになる人は自己管理がチャンとできる人です。伸びる人は、性格的に少なからず、几帳面なところがあります。 

 

つまり、正社員として採用するためには、一言で言うと、キチンとした人が一番だと。いくら、能力があっっても基本的なことがルーズな人は、結局、管理職のレベルまでいかないと、山田さんは語りました。 

  

山田さんの採用基準の三つ目は「気配りのできる人」です。そういう人は、相手のことや周りの動きをよく見ています。つまり、気配りの元になっているのは自然と周囲への目配りを忘れないことなのです。ちょっと前にKYという言葉が流行りました。その意味は「空気読めない」です。要は、状況を判断する力が足りないのです。だから、場の雰囲気を乱すような言葉を口にしたり、場違いな動きをする。自分のことしか頭にない人は、そこがわかりません。これから職場の一員として、仕事をするわけですから、職場の空気を読んで動くことくらい出来ないと困ります。

 

また、空気を読むというと、その場に合わせるような受け身の協調性のことだけのように思います。しかし、山田さんとしては、それだけでなく、時には職場全体の状況を見て、前向きに周りをサポートできるような人材を期待しているとのことでした。しかしながら、現実的には、自分のことだけで手一杯。アップアップしている社員の方が多く眼に付くとも話していました。

  

さて、皆さんは、この山田さんの視点をどのように感じるのでしょうか。私は「几帳面」という言葉に関心を強く持ちました。私共が関連する「経理の仕事」には、どちらかというと几帳面な人、キチンとした感じのする人が多いからです。

経理という仕事は、会社のお金に関わることなので、帳票や書類の数字や計算は合っていて当たり前。もし間違っていたら確実に上から叱られます。ですから、経理マンは、会計伝票を作成する際や、データを入力した後、必ず、その数字が正確であることを確かめる習慣が身についています。

そういう意味で、自分の仕事に正確を期す。責任を持つといった、一定レベルの自己管理ができる人でなければ向いていません。

  山田さんの言う「キチンとした人」を、より具体的に表すと、成る程「几帳面 」と言う言葉の方がピンときます。意味的にはこちらの方が良く当てはまるからです。こういうタイプの人を採用したいし、またこういう社員になって欲しいものです。

  

(平成301220日)          Ⓒ 公認会計士 井出事務所