事業再建における「伸び白の広げ方」(その2)

 

最近はあまり耳にしなくなりましたが、一昔前は、良く「マンネリ」という言葉を聞きました。会社に入って数年たち、ようやく一通りの仕事を覚えると今度は毎日の仕事がルーチンになってつまらなく思えてきます。ただワンパターンの仕事のやり方、同じことを繰り返しているだけなので、精神的に疲れてくるからです。そうなると、入社当時の前向きな気持ちや意欲が薄れてしまうことがあります。それが所謂「マンネリ」の状況です。この言葉は、あらゆるビジネスの分野に当てはまることです。

ビジネスは競争原理で成り立っています。ですから、時代の流れ、お客様の嗜好が変わっていることに経営が気付けないと、おのずと会社の業績は悪化する仕組みになっています。そのことは、今も昔も変わりありません。

つまり、経営がマンネリ化しているのです。このような業績不振のマイナス・スパイラルに一度入ってしまうと、そこから抜け出すのはかなり難しいことです。  

 

前々回、前回で、お話させていただいた、焼肉チェーン店の「つるみ(仮名)」も、そのような典型的な会社のひとつでした。赤字経営に陥った「つるみ」も会社としてやるべきことがハッキリしていませんでした。

 無論、経営目標や各店舗の売上目標はありました。しかし、数字目標を下に押し付けることが経営ではありません。急速な店舗展開の拡大に人材の確保、育成が追いつかなかったのです。上からの締め付けや掛け声だけでは現場は望ましい方向には進めません。しかし、残念なことに、前の経営者はそのことがわかりませんでした。

まさに、名ばかり店長がほとんどで、店長に相応しい仕事の出来る人材はほんの極一部の人達でした。与えられた目標を「どのようにして達成すれば良いのか。その具体的な方法がわからない」素人店長さんばかりだったのです。それでは、いくらお店を増やしても経営が成り立つ訳もありません。

結局「つるみ」は、不採算店舗を数多く作っただけの会社になってしまいました。

 

P社が「つるみ」を買い取った当時、彼らからすると「つるみ」の従業員、スタッフは「言われたことしかやろうとしない」とにかくやる気の無い人に見えました。

そこで、P社は店長さんやスタッフさんのやる気を引き出すために、従来の「つるみ」には無かった各店舗の報奨制度を導入しました。

現代人は、頑張る意味なり、努力の成果がハッキリしていなければ動こうとしません。人を動かすには褒めることが大切だと言いますが、実際に、褒めただけで動く人は、ほんのわずかだからです。

“現場の頑張りや努力が即自身の実益になる”それが、わかればやる気も出ます。「自分のお店の業績は自身の給与に直結する」ということ。

自分の店舗の結果(数字)「自分達の動き方次第で良くも悪くもなる」ということ。この二つを、お店のスタッフ全員が実感できなければ、ひとつひとつの店舗の再建は難しいと考えました。

 P社は“目指すものがあってこそ、人は持っている力を発揮し成長する” その仕組みを創ったのです。

 

その内容は二本立てでした。ひとつは、店長の報奨制度であり、もうひとつは社員を含めたお店のスタッフさん向けの報奨制度です。

前者の仕組みは、① 予約件数  店頭販売品の売上 ③ メール会員の獲得数 ④ 期間限定のお勧めメニュー(フェア)の売上 等 7つのコンペ項目を設定し、毎月1位から7位はいくら。8位から17位はいくら。8位から22位はいくら、というように月の報奨額を明確にしました。 

無論、店長だけが得をする仕組みだけでは下は動こうとしません。そこで、後者の仕組みも合わせてつくりました。

 上記のランキング制度とは全く別に「全店舗、前年同月比での利益増加額の10%」を、報奨金として店舗スタッフ全員に還元するようにしたのです。そして、その効果を高めるために、各店舗の前日までの実績が毎日全店でわかるようにし、それを毎日の始礼の際に店長が必ずスタッフ全員に伝えるよう指示しました。

 

毎日、従業員やスタッフさんに、前日の来店者数(そのうちの予約客数)と売上高を伝えているうちに、そこで思いがけないことが起こりました。

接客トレーニングの一環として導入した現場のミーティングの場で、来店者数アップ策についても皆で話し合うようになったのです。

そこから、各店舗で「期間限定割引券の配付・サイドメニューの一品無料サービスキャンペーン」といった色々な販促アイデアが出てくるようになりました。この他にも「お客様にお声かけキャンペーン」といった接客力アップのための自主的な取り組みも出てきました。このような前向きな動きは、特に成績優良店で強く出る傾向にありました。

 

社の「つるみ」の再建手法を分析してみると良く考えられた方法であることがわかります。P社は、まず「お客様に気持ちよく焼肉を召し上がってけること」を戦略にして事業再建を図ろうとしました。「接客サービス」を集客力の核にした店創りを目指したのです。そのために、接客トレーニングの徹底。エリアマネージャーによるチェック・システムの導入といった、数々の手を現場に打ちました。ルーズになっていた仕事のやり方を、お客様にとって当たり前のことができるように徹底的に指導したのです。

ところが、いくら接客トレーニングの仕組みや監督体制を整えて、ただ「やれやれ」と上から言っても下はその通りにはなかなか動いてはくれません。特に「つるみ」の場合は、業績不振が続いていたために現場スタッフのモチベーションが著しく下がっていました。そこで、現場の士気を高めるために「頑張れば皆が潤う」報奨制度を合わせて導入したのです。

従業員の「仕事のやり方」という行動の部分と「やる気」というメンタルな部分、その両面に同時に手を打ったことが、5年で再建を果たしたと言われるV字回復の成功につながったと言えるでしょう。

 

▶ 関連項目:現場の実行力を高める仕組みが成長力の土台になる

 社員をトレーニングする仕組みが組織力の土台になる

 仕事の仕組みの創り方(その2)チェック・システム