事業再建における「伸び白の探し方」

 

焼肉チェーン店を営む「つるみ(仮名)」は経営の危機に瀕していました。最盛期は全国で105店舗を展開する会社でしたが、今は関東と東海にある35店舗まで減り、売上は六分の一に落ち込んでいました。

 色々と再建策を講じましたが、結局うまく行かず最終的に、かねてより外食産業への進出を狙っていた食品加工業のP社に身売りをしました。以下は、焼肉チェーン店の「つるみ」を買い取り、5年で業績回復を果たしたP社の事業再建手法のお話です。

 

P社の経営陣が、まず最初にやったことは各店舗の業績の分析です。幸いなことに「つるみ」は細かな数値管理ができる店舗管理システムを導入していました。各店舗の売上実績は「ランチ・ディナー」といった時間帯別、「カルビ・ロース。ビビンバ・クッパ。キムチ・ナムル」という細かなメニュ-別のデータが採れる仕組みになっていました。この他にも毎日の時間帯別の来店者数や予約客のデータなど活用できるシステムが多くありました。そこが、P社が「つるみ」を買収した理由のひとつでもあったのです。

 これまでの実績を良く調べてみると、3店舗だけ継続的に利益を出している店が東海地区にありました。

 それらの店舗の共通点を洗い出してみると3店舗ともベテランの女性店長でした。もともと3人は同じお店では働いていました。そのとき店長だった小池さんとその部下2人だったのです。

 

P社の経営陣が、小池さんが店長をやっている店舗に実際に行ってみると、特別良いと感じるお店ではありませんでした。そこで、彼女に「何かお店で、今までズーッとこだわってやってきたことはありますか」と訊いてみると「接客とお手洗いの清掃だけは気をつかってやってきました」と答えました。接客の方は、元気が良いだけで、それほど高いレベルの接客をしているとは思えない状況でした。とても、お客様への丁寧さや細かな気配りができると言う感じではありません。確かに、お手洗いの方は他の外食産業のお店と比べてもプロの仕事を感じるレベルの清潔感はありました。

 

そこで、P社は東海地区の事業再建の軸として小池さんを業績の思わしくない他の3店舗の統括マネージャーとして抜擢し、お店の改革に乗り出しました。そして、彼女に担当する店舗を毎日巡回指導するように指示しました。

  とりあえずのテーマは、彼女のこだわりであった「接客力」と「お手洗いの清掃」の徹底でした。

小池さんが、業績の悪いお店を回ってみると、それらの店舗に共通することがいくつかあることに直ぐに気付きました。そのひとつが、まさに接客力の低さでした。

 まず「いらっしゃいませ。お有難うございました。かしこまりました。少々待ちくださいませ。お待たせいたしました。またお越しくださいませ」といった基本的な接客用語を口にすることが足りない。特に「いらっしゃいませ。お有難うございました。またお越しくださいませ」と言う言葉は、店長もスタッフさんも全員が、受付や会計、そのテーブルの担当者だけが口にすれば良いと思っている。また、その声にしても、声が小さい。

これらの言葉は、全員で声を出すようにしないとお客様に通じないことが、店長自身理解できていない。

 その他にも、お客様と接した際に、顔の表情や声に明るさや気配りみたいなものを感じない。お茶等の飲み物のコール対応や下げ膳にしてもテキパキと動いている感じは無く、むしろダラダラという感じがします。そういった、接客サービスの「いろは」が疎かになっていました。一言でいうなら、どのお店も、お客様からすると、とても感じが良いと言う印象を持てるお店ではなかったのです。

 

加えて、接客力の低い店舗の原因を、小池さんは、すぐに発見しました。その最大のポイントはスタッフさん(主にパート、アルバイトの店員さん)の指導が行き届いていないことでした。

 その原因はと探ってみると、スタッフが一定のレベルの接客が出来るようになるまでトレーニングを徹底してやっていないことです。店長さんが、毎日開店前の始礼の際に短い訓辞をするだけで、自ら先頭に立って、実際の接客トレーニングを十分にやっていない。それらの店長さんは、皆「口やかましく言うと、直ぐに辞めてしまうのであまりしつこく言えない」と答えます。しかし、彼らは、それが「接客力の低下⇒ 再来店率の低さ⇒ 業績の悪化」という悪循環を生み出していることがわかりません。

 小池さん曰く、美味しい焼肉を召し上がっていただくことは、焼肉屋として最低限当たり前のことであって、更に、そこで“気持ちよく食事をする”ことがお店として大切です。他店よりも感じの良いお店と思うから、お客様はわざわざ当店に何度も足を運んでくれるのです。接客サービスは“気持ちよく食事をする”という極めて重要な商品の一部です。だから、スタッフさんの接客トレーニングが欠かせないと言います。

 

「つるみ」の食材は、セントラル・キッチン方式で各店舗に提供されるため、そのレベルに差はありません。ですから、なおさらのこと「サービスの差」が他店との差別化要因になるのです。

飲食業に関わらず、店舗営業における業績のポイントのひとつは「固定客比率が高い」と言うことです。常連客が多く。その人たちが、ご新規さんを呼び込むと言う良い流れができていないと数字は延びません。

お客様が「また行きたい」と思うお店は「清潔感があって感じが良いお店」です。それこそ、現場の実行力がものを言うビジネスなのです。

 

「つるみ」のような事業再建も業績低迷からの脱皮する場合でも、基本的な考え方、手法は同じです。会社の全てが拙い、通用しないと言うことはないのです。何かしら勝てる要因、優れた処、アベレージ以上といった伸びシロや成長のきっかけ必ずあるものです。そこを探し出し、そこに絞り込んで再建を図ることが定石です。

  まさにコンビニで言うと「売れ筋商品」を多く棚に並べ「死に筋商品」を棚から外すことに他なりません。

 

( 平成28512日 )         Ⓒ 公認会計士 井出 事務所

 

▶ 関連項目:現場の実行力を高める仕組みが成長力の土台になる         社員をトレーニングする仕組みが組織力の土台になる

         当たり前のことができる会社になる(その1)

         言うは易し、行うは難し

                          当たり前のことができる会社になる(その3)

         注意や確認を忘れない

               当たり前のことができる会社になる(その5)

         お客様にとっての当たり前