小さな会社の業務改革(事例④ 現状分析のポイント)
このような現状分析の会議の場で、最初のネックになるのが、不良品発生に関わる事実関係 (原因)を整理してまとめることです。議論がある程度進むと、今まで気付かなかった問題点に多く気付くようになります。
「あれもこれもと」不良発生の状況や原因、生産現場の問題点を羅列することだけに気が向いてしまいます。確かに「どうして、このような問題が起きるのか。不良発生の原因が何か」その事実関係を明らかにすることは大切なことだと思います。
しかしながら、問題点の羅列というレベルで議論が止まってしまうと「どのようにして、それらを解決するのか」という一番肝心なテーマに話が進まなくなってしまいます。「問題点ばかりに目が向いて整理の仕方がわからない」という発想の悪循環に陥ってしまうからです。
平塚食品工業の場合も、不良品になってしまう原因(事実関係)を「どのように整理して、まとめるか」そこが不良ゼロに向けての解決策を探るポイントになります。
メーカーの場合、基本的に一定の生産工程に従い、製品を造っていきます。不良は、そのプロセスの何処かで発生すると考えれば、話の論点を上手く整理することができます。つまり、工程ごとに順を追って、洗い出した様々な問題点を整理し、まとめるのが「不良の発生防止」に役立つ問題解決の考え方だと思います。
数回のミーティングを重ね、会社として、具体的に「工場の現状分析(認識)」について、まとめた内容は以下の通りです。
1.不良発生の主要因は ① 計量ミス ②洗浄不良 ③ 生産量に応じた機械の温度調整や時間設定等の調整ミス の三つである。
中 略
4.洗浄不良の原因となる洗浄方法については、以下の8点が明らかになりました。
① 号機(生産容量)によって洗浄方法と洗浄時間が異なること。
② 号機によって、汚れの落ち難い部分が異なる。号機ごとの洗浄方法の
注意点が不明確。
③ 製品によって生産前の洗浄方法と洗浄時間が異なること。
(基本的に味の薄い製品から生産するので、当日の最終製品を造った後の
機械洗浄が一番重要)
④ 各号機とも、洗浄方法には、A(パーツを取り外して洗剤で1回洗)
B(洗剤で1回洗)・C(水洗)の3パターンがあること。
⑤ 洗浄パターンによって要する時間が異なるため、生産効率に大きな影響が
ある
⑥ 各機械の洗浄方法は、全て担当者任せになっており、その良し悪し
を他者がチェックすることはない。
ⅰ.生産を急ぐあまり、本来、A洗浄すべき所を、B洗浄しかやって
いなかった。
ⅱ.もしくは、B洗浄やC洗浄でも、やり方が雑で不純物が取りきれ
なかった。
ⅲ.当日の工程が遅れ、最終製品の生産終了が遅くなると、当日中に
洗浄を実施していなかった。
ⅳ.生産当日に細かな注意や確認の指示が無い。
ⅴ.当日の計画遅れ、工程遅れといった現場情報の連絡や報告が
工場長に伝わっていない。
ⅵ.ⅲを含め、当日の生産終了後の工場の状況確認を誰もして
いなかった。(最終責任者が不明確)
⑦ 製造課のメンバーに能力差(洗浄のスピード・丁寧さ)がある。
全体的に見ると「雑」。
⑧ 時間と手間の掛かる A洗浄の場合でも、手隙のメンバーが手伝うような
協力体制がない。
平塚食品工業の例に限らず、現状分析において「一つ一つの仕事のやり方の良し悪し」について、その事実関係を掘り下げていくと、今の仕事のやり方の「詰めの甘さ。段取りの甘さ。見通しの甘さ。認識の甘さ」に改めて気付きます。正に、それこそが改善・改革のポイントです。
その大きな原因の一つは「やった、やらない。できた、できない」といった会社が現場に求める仕事の基準が明らかになっていないことです。職場として“最低限できていなければならない仕事のレベル・その内容”がハッキリしていないのです。それが、担当者次第、現場任せになっていました。
問題解決(ソルーション)型の改善のポイントは「本来、やるべき仕事として、何ができていないのか?」「やらなければいけない作業として、何をやっていないのか?」その事実関係を、客観的に正確に理解することだと思います。その点がクリアーになれば、自ずと、その優先順位と対策となる解決策も見えてきます。
そのためには、今回の事例のように、その内容を書き出して、その言葉をベースにして、改革の議論を進めていくことが欠かせないと思います。
逆に、そこの所が上手くいかないのは、実際の仕事のやり方や進め方について、十分な議論をし、その事実の内容を正しく理解することが難しいからではないでしょうか。
( 平成31年3月22日 ) © 公認会計士 井出 事務所