成長のスタートラインに立つために

当事務所では、かねてより「経営計画の立て方」「事業計画書の作り方」という公開セミナーをお手伝いさせていただいています。その内容を一言で言うと“自社(製品・技術・サービス)の「セールスポイント」を明らかにする”ことです。そこが、ハッキリしていることが極めて重要だと思います。

 

何故ならば、自社のセールスポイントが明らかだからこそ「どのようにして売込みを掛けていくのか」という営業戦略や販売戦略の軸になる内容が始めて見えてきます。逆に「お客様にアピールすべきこと」「当社の独自のこだわり」いった具体的な内容がボヤけているから、新規開拓をやっても思うように進まないのです。

 今の時代「可もなく不可もなく」ということは有りえません。「可」と「不可」の二つしかないと思います。「可」になるためには「お客様にアピールできること」「お客様の気持ちを掴めること」を絞り込むことが求められます。

 

 この話をすると、多くの社長さんは、決まって「今さら、そんなことは言われなくても、わかっている」「そんなものがあれば苦労しない」と言います。しかしながら、そういう言葉を口にする方ほど、このような自社の「強み」や「得意分野」を切り拓くことが「経営戦略」の基本であることに気付いていません。

 

「そんな気の利いたことのできる社員は当社にいない」と返してくる方もいます。そう言う社長さんは会社の成長戦略を考え、実行するのは、社員の仕事だと思っている人です。

 

製品開発や技術開発といったように、何か新しいことにチャレンジするにはお金もかかるし必ずリスクを伴います。無論、必ずヒットする製品、絶対に成功する商売などありえません。だから「どうしても、及び腰になってしまう。二の足を踏んでしまう」と考える人もいるでしょう。しかし、よく考えてみると、意外なところにも「セールスポイント」となること。自社の強みにできることも沢山あります。

 

建物の防水工事業を営む㈱半田は、背中に担当者の名前の入ったユニフォームで仕事をすることで業績を伸ばしている会社です。発注元のゼネコンの現場監督からすると半田の社員は一目でわかります。仕事が雑だったり、

工期遅れがあると、直ぐに何処の現場かわかってしまいます。そのせいもあってか、作業員のダラダラ感や仕事のミスが無くなりました。また、作業員の名前が直ぐわかることもあり、気兼ねなく声をかけられるような風通しの良さもでてきました。それが、半田の現場は「仕事が丁寧」という評判になり、次の現場も半田で行こうという一番指名につながっていたのです。

 防水工事という狭いビジネスの話かもしれませんが、この会社は、顧客の信頼を確実に勝ち取っています。ある意味自社の名前がブランドとして通用する会社になっているのです。

 

このように考えてみると、(経営)戦略は、何も新しいことにチャレンジすることだけではないようです。半田のように“日々の仕事の中に埋もれている戦略”もあるのです。

 お客様の信頼は、顧客と直接接する現場の実行力に大きく関わっています。即ち「現場の実行力を高めること」も成長のために欠かせない戦略の一つです。何か新たなこと(ビジネス)にチャレンジすることも大切ですが、その一方で、お客様から「確かな仕事ができる。仕事にシビア」と、言われる会社になることも忘れてはいけません。

 それこそが成長の土台になるからです。

 

当事務所のコラムでは「リフォーム会社のマイスター制度」「MKタクシーの研修制度」「清掃業の鉄道整備」といった、業績を伸ばすための前向きな取り組みについてお伝えしてきました。その手法は決して画期的なことにチャレンジすることではありません。「基本的なこと。お客様にとって当たり前のことを徹底する」という極めてシンプルなことにこだわることです。 実際、現場が、基本的なこと、当たり前のことをキチッとできるようにすることは、そう簡単なことではません。ですから「香辛料会社の柴又香料」「古紙回収業の恵興行」のような反面教師となる事例も挙げました。混乱した現場の実情を振り返ることで、会社としての「目指すべき方向」を掴んで欲しかったからです。

 

  クレームが出るような仕事のやり方をしているようでは会社の数字は伸びません。スマホの普及と共に、何でも調べること、比べることが手軽にできる時代になりました。日に日にお客様の目は厳しくなり、ドンドン要求がシビアになっています。SWOT分析をすると「当社の強み」が見えない。それは、自社の仕事の内容やレベルに自信を持てないせいではないでしょうか。力不足と感じてしまうのは、現場の実行力が乏しい。仕事の基本的な部分が甘いからだと思います。何事も“基本の基”がシッカリと固まっていないと伸びるものも伸びません。十分な戦力が整っていなければ、ビジネスで勝つことはおろか、戦うことさえ難しいでしょう。だから、成長のスタートラインにつくことができないのです。

 

 ( 平成28年 7月 31日  )               Ⓒ 公認会計士 井出 事務所