手書きの予算実績管理表

 

 今私の手元に、30年前に作られた()玉川の手書きの予算実績管理表があります。その当時は、オフコン(*1)を導入している会社は多くありましたが、まだまだPCは高価で中小企業で見かけること自体が珍しかった頃です。 (*1) オフィス・コンピュータ-の略:給与計算や経理処理など特定業務専用のコンピュータ-

玉川は、インテリア用品の製造販売を行う会社です。全国に200件くらいの取引先を持ち、それに加えて、自社でも店舗を3店運営していました。売上は20億強で、その7割強は営業部隊による卸売りでした。

 今はもう「鉛筆なめなめ」という言葉は耳にしなくなりましたが、その予算管理表は、その会社の常務さんが、毎月一人で電卓を叩いて鉛筆書きで作成していました。今は、PCの販売管理システムやエクセルがあり、誰でもが実績データを入力すれば、予算差異まで自動的に計算されるのが当たり前の時代です。

 しかしながら、手書き時代の方が、一つ一つ数字の意味を考えながら管理表を作っていたように思えます。前にも書きましたが、数字には必ず意味があります。今の数字は、これまでの経営の意思決定、現場の努力の成果に他なりません。予想通りの結果になったこともあれば、こちらの思惑が大きく外れたこともあったでしょう。もしかしたら、何も手を打たなかった、何もしなかった結果かもしれません。現状で一杯一杯の得意先、頭打ちになっている製品もあるでしょう。

  いずれにしても、決して偶然の結果ではありません。必ず、そこには何かしらの原因なり、その事実に至った経緯があります。

昔のように、自分の手で苦労して数字を弾き出していれば、そこで何かと気付くことがあるものです。自ずと頭が働くことが何かしらあります。

逆に、今の方が容易に情報やデータが手に入るので、かえって頭を使わなくなっている感じがします。それ故、数字の意味の掘り下げが甘いように思えてなりません。

 

売上と言う数字を例にするならば「どのような営業努力をした結果、現状の数値になっているのか」その内容を探らなければなりません。そのためには、売上の明細がわかないと困ります。

取引先別の売上明細は請求書があるので割と簡単にわかります。ところが、収納や照明といった製品のカテゴリー別の売上集計や個々の製品別の売上明細となると、出荷伝票から集計し直さないと出てきません。

実際、これらの実績数値を掴むことは容易ではありませんでした。常務の手計算でほぼ、丸2日くらいかかりました。その頃は「こんなことが一発でわかると良いですね」と、よく話したものです。

 しかしながら、今考えると、そこに大きなメリットもあったことも事実です。大変な思いをして数字を掴んでいたからこそ、データ集計の時点で「どこの得意先の数字が好調で、どこが思惑外れなのか。新製品の動きはどうか」といった数字の細かな動き、その内容を逐一把握できたのです。

これらの実績数字の意味をシッカリ理解していました。    

自分の手で実績集計をしていれば、予算と大きな差異が出たときは「どうしてこのような大きな誤差が出たのか」必ず自分でその原因を細かく調べるものです。また、その差が小さくとも、本来誤差があってはならない項目ならば、その理由を確かめるものです。

一方、その頃と比べると、今は簡単に細かな売上データが採れる時代になりました。ところが、結果を出しっぱなしにしていて、その分析が甘いように思います。「重要顧客のところで取りこぼしは無いか。主力製品はどれ位伸びているか」といった細かな数字の動きを追っていません。販売戦略の視点から、営業(販売)予算管理を捉えていないからです。 

 

 このようなことでは、いつまでたっても目標達成に向けての具体的な対策やアイデアは浮かんでこないでしょう。予算実績管理表を作ることが仕事だと考え違いをしているからです。それを作成するレベルで満足している会社が多いように思います。無論、過去の実績はもう戻りません。これまでの結果は結果で仕方が無いことです。

 だからこそ「これから先の挽回策をシッカリと練ること」が重要です。

売上あるいは営業予算の管理で最も大切なことは「勢いのある数字を探し出し、伸び白を見つける」 そこから「この先、どこの取引先で数字を稼ぐのか。どのようなアプローチをしていくのか。どの製品をプッシュして売上を伸ばすのか」それを導き出すことです。次の一手となる「今後の対策、作戦」「現状の打開策」即ち「販売戦略なり営業戦略」を考えるのが上長の仕事です。経営が頭を使うことを忘れていては困ります。

 

毎月ある営業会議が、ただの報告会になっている会社をよくお見かけします。最も悪しき状況は、差異(未達)分析と称する現場の言い訳大会や責任追及の場になってしまうことです。それでは、売上予算(実績)の管理は意味がありません。今年の春から秋にかけて世間を騒がせたT社の経営会議はきっと、そういう場だったのでしょう。「チャレンジ」と言う言葉が話題になった会社です。

 

 ( 平成271018日 )        Ⓒ 公認会計士 井出 事務所