社員をトレーニングする仕組みが組織力の土台になる

京都に「MKタクシー」という会社があります。一昔前に、格安タクシーの東京進出ということで話題になりました。この会社は、単に「安い」を売りにしているわけではありません。当社はサービス業、接客業として他社と差別化するという戦略を掲げていました。その一環として、運転手さんに接客教育を徹底することでも有名になりました。その基本はまず挨拶です。

入社時に一週間の合宿研修を行います。毎朝「私、MKタクシーの○○と申します。お客様、どちらまでお出かけになりますか」と一人ひとり大声で言うトレーニングをするそうです。それが出来なくて、最初の三日で3分の1の人が脱落すると聞きました。一見、誰にでも出来そうなことですが、人それぞれ実際にやってみると出来ないことは沢山あります。

 

MKタクシーが他のタクシー会社と違う点は何処でしょうか。この会社の基本戦略は少しでも、気持ち良くタクシーを利用していただきたい”という、サービス業(接客業)へ、商売のやり方(ビジネス・モデル)を転換することです。

その想いを叶えるためには、まず運転手さんの接客力を向上させ「MKは感じが良いね」と好感度アップを図ることが必要です。そして、MKタクシーという名前を覚えていただき、そこから、当社の指名客、リピーターを増やすことがこの会社の戦略だったのです。

とは言っても、夜のビジネスに求められるような接客サービスをする訳ではありません。従来の業界にはびこっていた、お客様の気分を害するような無作法な態度を改めることが狙いだったのです。

 一方、他社は特別な経営戦略がある訳ではありません。だから日銭を稼ぐことにしか目が向きません。つまり、多少なりとも不躾な運転手でも一向に構わないのです。それでは、お客様は、まさに荷物と一緒です。

 このような悪しき業界慣行は、今の時代、最早通用しないと考えたのがこの会社でした。

 

 そこで、MKタクシーは、この戦略を成功させるためには「運転手さんの接客トレーニングが不可欠である」との結論に達しました。それ故、このようなドライバーさんへのトレーニング・システム(研修?職業訓練?)が生まれたのです。

“社が求める仕事の内容を明らかにし、社員一人ひとりがそれを確実にできるようにする仕組み”を創りました。

 ビジネスを伸ばすためには、当社の社員ならば「こういうことは出来なければ困る」という仕事の内容・レベルがあります。社員教育の基本は、それを周知徹底することにあります。

要するに、MKタクシーの場合、このようなドライバーさんへの教育の徹底は、戦略の成功には欠かせないことだったのです。

 

MKタクシーのように、本気で会社を変えていこうと思うならば、当社の社員なら出来て当たり前といわれる仕事のやり方を明らかにし、当社のスタイルを徹することが欠かせません。

見方を変えれば、それは現場の社員が行うべき仕事の内容を改善し、仕事のレベルを向上させることでもあります。ビジネスに勝つには、現場の仕事のやり方を、勝てるやり方に変えなければなりません。

そのためには、日常的な業務管理の仕組み以外に、別途、社員のスキル()をトレーニングし、即戦力にする仕組みが必要です。それが、研修制度という「仕事の仕組み」を創る狙いです。

しかし、よく考えてみると、大きな戦略転換があったから、改めて研修を行うというのは、ちょっとおかしな話だと思います。もともと、現場の業務レベルの維持管理は、社として取り組むべき仕事です。社内のどの部署であっても、確かな仕事ができるようにすることは、会社にとって極めて重要なことだからです。

にも関わらず、多くの会社の実情は、OJTと称する徒弟制度のような名ばかりの指導教育しか行われていません。果たして、それを指導教育と呼んで良いものか、わからない内容の会社がほとんどだと思います。

先輩の背中を見て仕事を覚えるという考え方は、今の時代にフィットしません。それでは、とても質の高い仕事ができる現場を創ることは難しいでしょう。OJTのような人海戦術に頼った社員教育には限界があります。

つまり、社員の育成は、現場任せ、本人任せにすることではなく、会社として組織的に取り組むべき業務なのです。社員に求められるスキルをトレーニングし、戦力として鍛え上げる仕組みは会社の縁の下を支える大きな力になります。社員の層が厚くなれば、自ずとそれが現場なり職場全体の実行力を押し上げるからです。

会社の成長力とは、ビジネスで勝てる競争力の差であり、それは、また組織力の差でもあります。組織力のベースになるのが、仕事のできる部下を養成する「仕事の仕組み」です。MKタクシーのように、社員個々のマンパワーに頼るのではなく「会社としての力」を蓄えることが重要です。

 

( 平成28712日 改訂 )    Ⓒ 公認会計士 井出 事務所

 

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