経営計画と人材育成

 

  前回に引き続き「経営計画を作る意味」について、首都圏で約20店舗のヘアーサロンを営むH社の経営計画発表会の内容について、いま一度検討したいと思います。

 経営計画発表会のメイン・イベントは、各店舗の店長と幹部スタッフによる次年度のお店の目標とその達成する営業計画をプレゼンすることです。

 業績向上の鍵は人材育成にある。それは、会社も個々のお店でも全く同じことです。そのことがシッカリと頭に入っている店長は、店舗の年度計画と人材育成計画が表裏一体のこととして、年間計画を頭で描けます。

 例えば、年末までに「AさんとBさんの指名率を60%以上までに上げる」という目標を立てます。美容業の成長、経営計画のベースには、お店のリーダーやキーマンの育成プランの成功が欠かせないのです。

 スタイリスト(美容師)というと、職人気質の強い仕事で、その教育方法も先輩の背中を見て仕事を覚えるような徒弟制度的なイメージがあるかもしれません。しかし、そのような昔ながらの徒弟制度的なやり方では、いつになっても社員は成長しません。そこで、この会社では、数年を掛けて看板スタリストや次世代店長等お店のキーマンを養成する(トレーニング)プログラムを用意しました。社内にシッカリとした研修システムがあり、技能研修と技能試験、技能給が連動している仕組みになっています。

 

 ここでは、その内容を、少し紹介しましょう。 その一つが、数字の取れる看板スタイリストの養成プログラムです。ある意味、お店の数字は、指名率の高いスタイリスト。指名客(ファン)の多い人が、何人いるかで決まります。多くの場合、その店の店長がナンバーワン・スタイリストです。

 ところが、ナンバー2、ナンバー3のスタイリストと指名率に大きな差があるのも良くあるケースです。いわゆる繁盛店、この会社の旗艦店と呼ばれる店は大型店では、必ず看板スタイリストが何人かいます。いくらカリスマ店長がいたとしても、彼(彼女)一人の力には限界があるからです。 そこで鍵となるのが、店長に続くナンバー2、ナンバー3スタイリストの育成です。彼等を指名するお客様が店長同等レベルに増えないと、お店のビジネス(商売)は良い方向に進みません。つまり、店長の最も大切な仕事のひとつは自身の後継者である売れっ子スタイリストを育てることなのです。

 

 意外なことと思うでしょうが、指名率を上げるには、カットやスタイリングといったスタイリストの美容技術よりも接客力の方が物を言います。この会社では、給与と連動した技術の社内資格制度がありますが、スキルの高い人が必ずしも指名客が多いとは限りません。それよりも、むしろお客様との会話力やトーク術といったコミュニュケーション能力に長けた人(感じの良い人)のほうが、指名率が良いこともあります。 そこで、各店長は、接客のコツ(お客様とのコミュニケーション技術)を、重点的に指導していきます。  

 

 具体的な方法としては、3ヶ月をワン・クールにして目標を設定し、そのテーマがクリアーできるようになるまでトレーニングを続けます。言い換えると、そのスキルをマスターするまで指導します。  目標設定の例を挙げるなら「お客様が主役の会話術をマスターする」という基本テーマがあります。 これに対し、指導を受ける側のスタイリストも、毎週ABCDEの5段階で「巧く出来た。出来ない」のレベルを自己評価し、その結果とその理由について店長に報告をしなければなりません。 そして、お客様のアンケート結果と比べながら「マダマダなのか、もう一歩なのか」そのスキルの現状、達成状況について毎週、店長と意見を交換し、アドバイスを受けていきます。加えて、エリア・マネージャーが、上達レベルを毎月チェックする仕組みになっています。

 

 H社で、お店のキーマンになる人材の育成計画が立てられるのは、このようなシッカリとしたスタイリストのトレーニング・プログラムがあるからです。このような仕組みが整っているからこそ、各店舗の営業計画や会社の経営計画の内容が確実に成功に結びついていくのだと思います。

 他方、ナンバー2スタイリストがなかなか育たないと言う会社は、社員の指導をほとんど店長一人に任せています。つまり、その人の個人的な指導法に頼ってしまっているのです。だから、店長個々の指導力の差が大きく出てしまいます。

 そのひとつの理由は「具体的なテーマ(目標)設定」ができないことです。

上記の例で言うと「指名率を上げる。指名客を増やす」と言っても「その為に何をすれば良いのか。具体的にどのようなスキルを身につければ良いのか」それが、わからなければ効果的な指導はできません。接客術にもコツやノウハウがあるのです。

 そこで欠かせないのが、トレーニング・プログラムの存在です。指名率を上げるには、いくつかのチェック・ポイントをクリアーできなければなりません。つまり、それらは、売れっ子スタイリストになるためにマスターしなければならないスキルであり、達成すべき(目指すべき)目標でもあります。  そのように考えると、トレーニング・プログラムはスキル・アップための、段階的なチェック・リストと言えるでしょう。一口に、人材育成と言いますが、H社のように社員の育成プログラム(方法)と育成計画をワンセットにして進めている会社は少ないと思います。

 

 (令和2年1月29日)        © 公認会計士 井出 事務所

 

   ▶ 関連項目:看る眼を養う

         :経営計画(書)を作る意味