赤字会社に転落する三つの条件

 

バブル崩壊による不景気が持ち直して回復基調の感じられる十数年前、

たまたま同時期に赤字会社を3社お手伝いさせていただいた時期がありました。ひとつは一部上場会社(以下、A社とします)であり、もうひとつは店頭公開今のJASDAQ)会社(以下、B社とします)、三つ目は、売上20億強の中小企業(以下、C社とします)でした。

 仕事の内容は、研修やコンサルなど、会社によって様々でした。私が、そのの時に気付いたことは、以下に示すような、赤字会社に共通することでした。

 

 ① 経営戦略が不明確であること 

   業績管理が甘いこと

  ③   経営と現場、現場リーダーと部下といった階層間での

   コミュニケーションが悪く、会社全体がバラバラで組織としての

     一体感がないこと。

 

 これらの3社の共通点から、赤字会社になる条件とその原因を探ってみましょう。

 

①の「戦略の曖昧さ」の原因は、A社とB社の二つの上場会社は、いずれも大手上場会社の子会社であり、歴代社長は、親会社から派遣される出向者で、3年もしくは6年で社長が交代してしまいます。

 C社の社長は、同族会社の3代目で、自分で判断したり、意思決定することをせず、何でも下に任せっぱなしにしてしまう人でした。

 A社とB社は上場会社でしたので、当然、定期的に経営計画を作成しており、管理体制の基礎になる予算管理制度もありました。しかし、両社とも腰掛社長さんなので、経営企画が作成した戦略や計画を承認するだけで、自社の将来について深くコミットすることはありません。トップセールに打って出るわけでもなく「何処の顧客を攻める」とか「この先、どの製品、商材をプッシュする」など、具体的な営業戦略も下に任せっぱなしです。結局、その実態は、C社の社長と同じく、何でも部下に任せていただけでした。

 

 ②の「甘い業績管理」はと言うと、①で見たように、会社経営への関わりあい方が浅い経営者は、当然の如く経営数字への関心も薄いものです。自身の経営成績という自覚がないからです。

 業績が好調のときは結果オーライで済みますが、しかし、彼らのようなタイプの社長は、一旦悪化すると、経営が具体的な改善策を打ち出すことが出来ません。

 赤字会社の社長さんに共通することは「ただ、売上を伸ばせ。目標を達成しろ」と営業に発破をかけるだけです。無論、彼らも経営者ですから、売上や利益が増えた減ったくらいのことはわかります。

  ところが、彼らは月次決算の数字を見てはいても「主要顧客の数字が伸び悩んでいる。主力製品の売り上げが落ち込んでいる。在庫が増えている」といった細かな数字の動きやその原因をシッカリと掴んでいません。取引先の動きや状況、営業や工場等の現場の実態を的確に理解していないのです。

  業績悪化のシグナルとなるデータが出ているにもかかわらず、状況を甘く見て具体的な手を打つのが後手に回ってしまいます。その実は、経営が売上や利益を確保するための「営業戦略や製品戦略の転換」や「在庫調整」といった対策がわからないのです。

 上場会社のように、毎月経営会議や事業部ごとの戦略会議を開いている処でも、このような経営の実情は変わらないと思います。だから、昨年のT社のような事件が起きるのです。

 

③の「会社としてのまとまり感がない」原因を探ってみると、A社とB社のような腰掛社長さんは親会社の顔色しか伺っていません。いつ自分が本社に帰れるのか、そのことしか頭にないのです。だから、子会社にいるうちは、リスクを取るような意思決定は極力避け、出来るだけ無難で平穏無事な舵取りをしようとします。

  そのような態度を、現場リーダーである管理者層は口に出さずとも冷ややかな眼で見ています。それでは、望ましい方向に会社が進む訳がありません。

 C社の三代目社長に至っては、残念なことに経営者として果たすべき役割責任、仕事の内容がわかりません。そのせいもあってか「皆で話し合って決めてください」という言葉をたびたび口にします。人材が揃っている大会社の社長のような気になって「部下を信頼して任せる」という態度を取ろうとします。しかし、部下に「任せた」と言いますが、その権限を委譲したわけではありません。

 日常業務においても、お金こととか、仕事のやり方の社内ルールに関すること、人事に関わることなど現場の管理者が勝手に判断できないこと、決められないことは沢山あります。中小企業では、現場の権限で自由に出来ることなどほとんど無いのです。独断で動くと、後で「何で勝手にやるのか。どうして許可を得なかったのか」と叱責されるのがオチだからです。

 逆に、事前に判断を仰ぐと、今度は明確な判断や具体的な指示がもらえません。あるいは、一度決めたことが二転三転します。このような状況が重なると、現場は安心して動くことが出来なくなってしまいます。

 仕方がないので、現場はこれまでの権限の範囲内で動くしかありません。それでは、部下の信頼も得られないし、現場の統制も執れないでしょう。このように経営が求心力を失うと、自ずと、まとまりのない会社、職場になって行きます。

 ABC社共、会社の軸となるべき社長が、(経営)判断を避けたり、確かな意思決定ができないようでは会社は動きません。だから、赤字会社に転落してしまうのです。

 

戦略(経営)不在 甘い業績管理 社内のバラバラ感 この三つが、私共の考える赤字会社になる条件です。しかし、面白いことに、この条件が三つとも揃わないと赤字にはなりません。

 

少なくとも、②の条件である、会社の数字をある程コントロールできれば、赤字に転落することはありません。例え、売上が低迷しても、仕入コストや諸経費など、スピーディーにコスト面での調整を行うからです。

 赤字イコール、リストラという安易な発想がありますが、その前に打つ手は色々あると思います。

 また、明確な戦略は無くとも全社一丸となって、ビジネスに取り組んでいる会社は、一定レベルの確かな仕事ができるので、新規の取引先が無くとも既存顧客だけで何とか最低限の利益をキープできるものです。

 

国税庁の統計によれば、法人税を払っている会社は、3割超しかありません。つまり、日本の会社の7割弱が、上記の三つの条件を満たしていることになります。

 

( 平成28612日 )          © 公認会計士 井出 事務所