営業戦略の二つの意味

 

 皆さんは、営業戦略の意味をどのように理解しているでしょうか。ビジネスの現場で良く耳にする言葉ですが、その内容について訊いてみると、人それぞれ色々な考え方があることに気付きます。

 ひとつの意味は、成約受注という商談を成功させる戦略です。商談の現場には、話の流れが途切れてしまうポイントがいくつかあります。話すことが無くなって訪問活動が継続できない。他社商品と違いを上手く伝えられなくて提案した話に乗ってこない。取引条件の隔たりを埋められない等々、いくつもの壁をクリアーしないと仕事は取れません。この他にも、予期せぬ状況がいくつも待ち受けています。営業の仕事は、それらを臨機応変に乗り切る戦略が必要です。

 アポ取りから始めて、提案、提案内容の調整、取引条件の交渉と手際よく話を進めて、ビジネスをまとめる。商談の進め方のコツやノウハウがあります。営業マンの多くは、それが営業戦略だと思っています。

 

 それ以外にも、部署全体として、今期の営業目標、予算をどのようにして達成するのか。その全体シナリオを営業戦略とする考え方もあります。

営業には、確実に数字を取れる取引先もあれば、逆に前年の数字を死守しなければならない処もあります。

 目標を達成するには、営業活動にメリハリを付けることが欠かせません。既存顧客、新規を含め伸び白のある企業とのお付き合いを増やすべきでしょう。優先順位を明らかにする。そのことを忘れてはいけません。

つまり、社として攻めるべき取引先があります。社の方針として重点顧客をリストアップし、そこに何を提案するのか。数字を取る商品やサービスを明確にすることが重要なのです。

 ところが、昔から営業マンは「自分の行き易い訪問先に行って、売り易いものを売りたがる」という傾向があります。その結果、頑張れば取れる数字を取りこぼす。あるいは、新規開拓と新商品の売り込みが思うようにはかどらないということが起きてしまいます。

 目標達成の軸となる顧客を絞込み、そこに営業努力を重点的に注入する。その動き方を営業戦略という会社もあります。

                          

 前者は、一担当者的な考え方であり、いわば「個の戦略発想」です。後者は、経営者や営業部長の考え方であり「社の戦略発想」と言えるでしょう。

各々の立場に立ってみれば、両者とも「成程な」と思えるような内容です。このように、営業戦略の狙いや意味は立場によって、考え方の違いが生まれてきます。

 

 個の戦略発想からすると、営業部員一人一人が自身の責任を果たせば、社()全体の目標も達成できると考えるでしょう。営業が5人いたとしたら、

5つの目標の合計が部全体の目標であり、一人一人の実績合計が社の売上実績になるからです。簡単な足し算と考えます。

 ところが残念なことに、現実のビジネスはそのようなシンプルな仕組みになっていません。営業全員が与えられた目標を達成できる会社は滅多にありません。目標に対して凹みが出た場合、何処の取引先の数字でカバーするのか。個の戦略だけでは対応できないことがあります。よくよく考えてみると、目標達成のリスク管理、リカバリー対策を含めた「社としての戦略構想」が必要なことに気付きます。

 ですから、全てを担当に任せっぱなしにしているような営業体制では、社の売上目標をコンスタントに達成することは難しいでしょう。

 

 「個の営業戦略」と「社の営業戦略」では、この他にも様々な違いが出てきます。例えば、営業マン全員が個人目標を達成したとしても、それを既存顧客だけで達成するのと新規開拓を含めた取引先で達成するのでは、社内的な意味合いが異なります。

また、成長性のある得意先の取引を伸ばすのと、現状で一杯一杯の会社で数字を取るのでは、成長性という観点から大きな違いがあります。

他にも、売上上位の得意先だけの合計で目標をクリアーするのと、数多くの小さな商売の積み重ねで、ようやく達成するのも内容的に異なります。一社当りの売上の伸びが違うからです。

 ところが、担当者にしてみれば、目先の数字を取ることだけで頭の中がいっぱい。自分の役割責任を果たすだけ精一杯です。つまり、個の戦略を足し合わせるだけでは、社の営業戦略にはならないのです。

 

 一人のアイデア、個人の提案力、ひとりの行動力に頼っている限りは、大きな業績の伸長は望めません。個の営業力、その結果の合計で良しとする以上、その人のキャパを超える結果は期待できないからです。

「個の戦略」を寄せ集めた営業戦略だけでは会社を成長させることは難しいでしょう。企業として次のステップに進むには、当社の営業努力を結集するような「社の営業戦略」を明らかにすべきだと思います。

 

  (平成25618)                  ©公認会計士 井出事務所

 

   関連項目 ► 重点顧客管理の重要性