スケジュール表の活用事例
アパレル業を営む ㈱門倉の営業部では、昨年から、2ヶ月ごとに各担当者に今後3ヶ月先までのスケジュール表を提出するようにしました。その背景となったのは、当時の空回りする職場の実情でした。
それまで、この会社は、全てが担当任せで会社の業務が動いていたからです。
その結果、
① 重要顧客での取りこぼしが多い
② 主力商品の売れ残りが多い(店頭在庫管理が甘い)
③ 担当者によって仕事のレベルにバラツキがある。
④ 凡ミス・不注意が多く、不手際が目立つ。準備不足が無くならない。
⑤ 営業の“基本の基”や“イロハのイ”ができていない。
⑥ 職場のルールや決まりごとが徹底できない。
⑦ 仕事の進め方が場当たり的で成り行き任せ。その場しのぎの連続で
進歩が無い
⑧ 今日のことしか頭にない。明日のことは明日のことで、明日のことは
頭にない。要は「先を見て動く」スキルがない。
⑨ 「いつになったら提案してくれるの」という風に、取引先から
指摘されなければ動けない。
⑩ 月次の定例営業会議は、よく言えば報告会だが、その実態は
目標未達の言い訳大会になっている。
といった日々の問題点が山積した職場でした。厳しい言い方をすれば、毎日ただ惰性で仕事をしているような営業部だったのです。
アパレル業界のように季節商品を取り扱う業界では、繁忙期の約半年前からアプローチをスタートします。ライバルに少しでも遅れを取れば、一番売れるタイミングでの売り場のファイスが確保できず、売上ダウン、在庫返品という悪循環に陥ってしまいます。
つまり、いつも半年先を睨んでビジネスを先手々々に仕掛ける営業が欠かせない業界です。
実際、当時の門倉は、後手に回った動きが目立ちました。得意先からのクレームも後を絶ちません。最終的に社長からの強い指示もあって、ようやく営業の田代部長が重い腰を上げました。その具体的な解決手段の一つが、先を見た動きができるようにする「3ヶ月先までのスケジュール表」の提出だったのです。
各担当から提出されたスケジュール表を見て、田代部長は驚きました。営業の7割くらいは、当業界の営業の流れ、仕事の段取りのようなタイムリーな基本スケジュールが全く頭に入っていません。
例えば、8月の第2週は、月末のクリスマス商品の提案に向けて商品の最終的な詰めを終えていなければなりません。ところが、スケジュール表に書かれた内容は、既に決まっているフェアの期間といった予定ばかりです。
営業として一番肝心な「そのために、いつからどのような準備をするのか。その際、得意先のバイヤーとどのような打ち合わせ(話を詰めるべき内容)が必要なのか」という具体的な仕事の中身がわかっていないのです。それでは、数字が取れる訳もありません。そこで、部下一人一人のスケジュール表にコメントを加えて、本人に返すと共に、細かな仕事の内容について調整をするために面談をすることにしました。
以下は、そのコメントの内容です。
“どのタイミングで、先方のバイヤーさんと打ち合わせをするのか。その商談の内容 ・ポイントについて、もっと詳しく詰めてください“
“重要顧客であるI社については、提案する商品の内容、構成(具体的なブランド・色合 い・柄・本数)等、その内容ついて、先方に提出する前に一度、相談してください”
“モチベーション(導入期の先行展示)に関わる打ち合わせについても記入してください”
“秋冬の内覧会に関わる準備についての記述がありません。去年と同じように、成り行き任せ・場当たり対応の失敗をまた繰り返すつもりですか?”
各人との面談を終えた後、改めて田代部長が気付いたことは、ほとんどの部下たちが成り行きでしか動いていないことでした。これまで門倉では営業に日報の提出を求めていましたが、それだと目先の仕事にしか眼が向きません。そこで、提案の準備や段取り等、月間のスケジュール表と照らし合わせて、週単位で活動目標を持って動けるように、今後は土曜日の朝一に提出する週報に変えることにしました。
それ加え、週毎の売上集計ができる火曜日の午前中に、各担当と週報のフィードバックを兼ねた打ち合わせをすることにしました。取引先個々について今後の作戦会議をするようにしたのです。
そこでの話し合いの内容をスケジュール表に織り込み、来年度は「重要顧客の営業カレンダー」が作れるようにしました。
「いつも先を見て動け」と上は言いますが、そのためには、営業に関わらず各部署の業務カレンダーを作成することが欠かせません。日々の仕事を成り行き任せにしないよう、惰性の仕事の連続にならないようにするには、スケジュール表に今月の目標や重要テーマを確実に書き込むべきです。それであってこそ、業務内容のレベルアップに繋がる活きたスケジュール表が出来上がります。
( 平成28年8月15日 ) Ⓒ 公認会計士 井出 事務所
関連項目:週報の活用法(その1):(その2)