二兎追うものは一兎も獲ず

 

前々回のコラムから、経営の右腕として動ける幹部社員がいない。社長の仕事をサポートできるような現場リーダーがいない会社は、社長自ら、そういう会社の体制、環境を作っていることを指摘させていただきました。

それらの会社の特徴として、社長さんの3つの行動パターンを挙げました。

今回は、その三つ目のタイプは、社長さんが現場の管理者に「ドンドン任せて育てる」パターンです。

 

当社が目指すべきヴィジョン。達成すべき(売上)目標は明確だ。ところが、経営が一所懸命、旗を振っても現場がついてこない。月次の定例会議で、いつも(部下の)尻を叩たたいているが動きが鈍い。そう思っている社長さんが多くいらっしゃいます。それは、営業、生産、開発と言った会社の組織がシッカリしていて、各部署の予算、権限といった責任体制や管理体制も万全、優秀な人材もそれなりに揃っている組織的な動きのできる大会社の話です。 会社の経営実体が中小企業レベルの会社では、旗を振るだけでは他人は付いてきません。部下の尻を叩くだけでは下は動かないのです。このようなやり方では、経営をサポートできる幹部社員は育たないでしょう。

 

「ドンドン任せる」タイプの社長さんは「役割責任を明確にして実際に経験を積ませないと幹部社員は育たない」という考えで、部下に経営の仕事を任せます。その際「新規事業・新規開拓・新製品開発」といった会社の将来を担う戦略(新しい分野を切り拓く仕事)を彼ら(現場)に任せることがあります。経営サイドからすると、新しいビジネスの成功と幹部社員の判断能力・実行力の向上という「一石二鳥」を狙うやり方です。

しかし、現実はそう甘くありません。「二兎追う者は一兎も獲ず」の喩えの通り、逆に二つの狙いが共倒れになるケースがほとんどです。

このような考え方をする人たちの多くは「会社のヴィジョンのような将来のあるべき姿を示すこと」あるいは「売上目標、コストダウン目標といった具体的な数値目標を明らかにすること」を「経営戦略」と勘違いしている経営者の方達です。それさえ示せば、彼らは現場責任者が自主的に動いて結果を出してくれるものと思い込んでいます。

経営戦略や営業戦略、開発戦略の成功において、一番大切なことは、それらを「どのように目標を達成するのか。どのようにして戦略を成功に導くのか」その具体的な戦略(*1)を考えることです。

新規事業、取引先の新規開拓や新製品の開発を、どのようにして成功させるのか。その道筋を示す。確かな成功に導く具体的な方法論を考えるのも経営の役割です。

新しい分野、未経験の仕事にチャレンジする時は、これまでとは違う発想や手法で取り組まなければ成功は望むべくもありません。それらを曖昧にしたまま戦略だけを下に指示しても、現場は「どのように動けば良いのか」それがわかりません。仕方が無いので、これまで通りのワンパターンのやり方でやって失敗する。だから戦略が「絵に書いた餅」に終わってしまうのです。もし本気で「新規事業を立ち上げよう。営業目標を達成しよう」と思うなら、社長自らが現場の陣頭指揮を採り、トップセールスをドンドンかけるといった動きをすべきだと思います。

 

「ドンドン任せて育てようとする」社長さん、即ち一石二鳥を狙う人たちは、困ったことに「任せて良いこととそうでないこと」と「影でサポートすべきこと」の違いがわかりません。経営者がしっかりとサポートしなければならない仕事までも現場に任せてしまいます。

その悪しき状況が「仕事の詰めが甘い」ことを知りながら、失敗の様相が濃くなってきて初めて「どうしてもっと早く相談をしに来ないのか」と「後だしジャンケン」みたいに文句を言うことです。

昔から、責任とは「任せて責めること」と言いますが正しくその状況です。

このようなケースが当てはまるようでは、大抵の場合、時既に遅く、その戦略も不成功に終わってしまいます。そもそも「新しいビジネスを成功させたいのか。それとも幹部社員に経験を積ませたいのか」どちらに重きを置くのか。それ自体がハッキリしていないので、こういう結果になってしまうのです。

 

1) 戦略と言う言葉は、時に戦略を実行するための具体的な手法・方法    の意味としても使われます。それを明確にするために「戦略」と     「戦術」という言葉に分けて使うことがあります。

     戦術とは、余り聴きなれない言葉ですが、具体的な目標を達成す    るためのチラシ作戦・ローラー作戦といった「作戦」と考えていただ    ければよいでしょう。

 

( 平成271124日 )       Ⓒ 公認会計士 井出 事務所