伸び悩む管理職の育て方

 

IT関連会社で経理課長をやっている三上さん(四十代前半)は、未だに金融機関の対応を含めた、資金繰りができません。一方、自社の決算ができるかと言うと、こちらの方も難があります。

上司である部長の古川さんは、自分の定年間際になって自身の仕事の引き継ぎをするのではなく、早目に仕事を三上さんに引き渡し、彼が五十歳になる前には二人三脚の部長体制で臨みたいと考えていました。

彼からすると、三上課長は、月次の決算業務は安心して任せらせるくらい、そこそこ仕事はできます。資金繰りの方も、はやく覚えて欲しいと思っていますが、彼はなかなか覚えようとしません。               

三上さんみたいに、経理一般の仕事はできるのに、資金繰り、銀行対応ができない、決算が出来ないという経理マンはかなり多いと思います。

要は、一人では経理全般の仕事ができない人です。この話は別に経理の仕事に限ったことではありません。

営業、生産等何処の部署、職場、職種にも当てはまります。既存のルートセールスはできるが新規開拓が苦手な営業課長。既存製品の品質管理、納期管理はできるが、効率化のための工程改善ができない製造課長。等々、創意が求められる仕事が不得手な上司も同じです。所謂、万年課長から抜け出せない人達です。

 

彼らのようなタイプは能力が無いのではありません。むしろ多くはメンタル的な側面で伸び悩んでいます。

 自分の仕事は一所懸命にやるが、周囲の動きを見ていないので、他人の仕事を自分がやるとなると要領がよくわからない。失敗を恐れてチャレンジを避けてばかりいるから、いつになっても自分のキャパが広がらない。

 その一方、自身で勝手に視野を狭めていることに気付けません。だから「仕事がマンネリ化している。先が見えない。行き詰まる」という悪循環にはまっています。

そういう状況なので、自分も「やればできる」という小さな成功体験をあまり持っていないのです。さらに、自部署業務の全般が見渡せていないので部署のリーダーとしての役割にも自信が持てません。

 それゆえ、新たなチャレンジに尻込みしたり、経験のない仕事にどうしても及び腰になってしまいます。上手くできることよりも先に失敗することが頭に浮かんでしまいます。しかし、そうとも言えず、忙しい忙しいと言って、自分の役割の囲い込み、「やらない理由」「出来ない訳」を一所懸命考えようとします。

 

三上さんのような、自身の担当業務にしか眼が向かない人の仕事の視野を広げるには、会社として彼を上手く巻き込んでいかなければなりません。

特に、人材を選ぶ余地が少ない中小企業にとっては、この手の人達をどうやって育てるか、そこが大きな問題です。本人が自覚するのを待っていたら、きっと定年まで今のままでしょう。だからこそ、後継者となる管理者の育成に上長がもっとシッカリと関わるべきです。

できるだけ早い段階から将来への道筋をつけて、背中を後押しすべきだと思います。若いうちから、もっとドンドン仕事を任せる。経験を積ませることが必要です。「鉄は熱いうちに打て」の例えの通り、体力があって、物事を受入る発想が柔軟なうちに鍛えておくべきでしょう。

 

そこで、古川さんは、会社としての期待を三上さんに伝え、五十になるまで自分と同じ仕事できるように要望していることを話しました。また、今まで以上にリーダーとしての視点と自覚を持って部署全体の仕事の目配りをして欲しいとの話もしました。そこで、まず資金繰りをできるように三上さんに指示しました。

資金繰りの仕事は、慣れてしまえば特段難しい仕事ではありません。何処の会社でも、今月の資金繰りができるような仕事の仕組みがあるからです。「今月はいくらお金が入ってくるのか」という入金管理と「いくらお金が出ていくのか」という支払管理、これに手持ちの銀行残高を考慮し、必要に応じて金融機関に手形の割引や融資を依頼する仕事です。入金管理を例にして言うと、今月の「売掛金の回収リスト」や「受取手形の回収リスト」から「入金予定一覧表」を作ると言った具体的な仕事のやり方や流れがあります。

銀行折衝の方は、金融機関との話し合いや交渉の場に立ち合わせて、徐々にその雰囲気に慣れさせてから三上さんに任せることにしました。

 

彼のようにやればできるのに、やろうとしない万年課長タイプの人達には「環境が人を創る。仕事が人を創る」ということを覚えて貰わなければなりません。百社あれば、百人の経理部長がいます。会社の規模や彼らのレベルの違いはあれど、基本的にやっている仕事は同じです。やろうと思えば誰にでも出来る仕事なのです。

そこが、彼にとって「どうしても越えられない一線」なのか「越えようとしない一線」なのか。そのどちらかと言うと、上司からすると明らかに後者です。環境や仕事がその人の能力を伸ばします。

「可も無く不可もなく」では今の時代は通用しません。昨今は「可」と「不可」しかありません。自分のスキルをシッカリと身に付けていないと定年後の再雇用の道も厳しくなってしまいます。

 

( 平成2656日 )

 

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