「戦略のない会社」に、戦略のわかる幹部社員は育たない

当社の営業部長や工場長、開発部長は(経営)戦略がわからない。もっと勉強して経営感覚を身につけて欲しい。そう感じている社長さんは多いと思います。では、社長のいう「戦略の意味を教えてください」と部下が訊くと「会社をどのようにして伸ばすのか。成長させるのか。売上をもっと増やすこと」成長戦略のことに決まっているじゃないかという答えが返ってきます。

 その一方、上から「戦略がわからない」と思われている幹部社員からすると、ほとんど全員が「うちの会社には戦略がない」と思っています。そこで、戦略として「当社は何をすれば伸びると思いますか」と彼らに訊くと、必ずと言って良いほど、ヒット製品の開発とか海外進出とか、その会社の実情に合わない非現実的な答えが返ってきます。

こういう会社では「戦略」という言葉だけが一人走りして、上と下で勝手に行き交っています。経営は「いつも(戦略を)考えている」とは言いますが、現実の動きにはほとんど結びつきません。その実、上も下も本当はどう動いてよいのかわからないのです。だから、何も進まないし、何も変わらないのです。

 

業績を伸ばす方策を「戦略」というならば、会社として実際に何をして行けば良いのか。その具体的に打つ手が見えていないのです。せいぜい営業に「酷な売上目標を課すこと」その程度が現実にやっていることです。

目標だけ与えて「訪問(開拓)先の絞込み」も「営業手法」も現場任せ。その実態は、部下である営業部長任せ、担当者任せでしかありません。それでは、会社の掲げた売上目標が達成できるはずもありません。例え、新規開拓が成功したとしても小口の取引先ばかりで大きな伸びが見られないのが現実だと思います。

 戦略というものが漠然としすぎていて「どう考えてよいものか」それさえわからない。だから、何も手を打てないまま、目先の仕事ばかりに目がいってしまいます。

 

 レトルト・カレーの原材料となるカレー粉やスナック菓子の調味料を造っている柴又香料() は、これまで得意先の食品会社からの指示に従って製品を作るだけの受注業でした。しかし、業績の頭打ち、売上げの低迷という状況に直面し、初めて社長の宮崎さんは「自社製品の開発・提案営業」という商売のやり方に変えていかなければ、成長どころか、今後の継続取引さえ危うくなることに気付きました。

かねてより宮崎さんは品質管理課の福田課長に新製品の開発を命じていました。その実際は、取引先に出向いてリアリングをし、製品開発のヒントを探すように指示をするだけです。具体的な開発テーマや開発目標があるわけではありません。加えて、定期的な開発会議もなければ、開発予算もありませんでした。

 一方、開発を任された福田課長は、ミスの多い製造現場の後始末に追われ、日々の製品の品質管理の仕事だけで手一杯、開発の仕事まで全く手が回らないのが実情です。

 柴又香料の状況は、ある意味、多くの抽象企業にありがちな開発業務(商品戦略)の実態だと思います。既に、お気付きのように柴又香料()には、具体的な経営戦略も商品戦略もありません。戦略が、ただの掛け声だけになっているからです。このような「しっかり頼むよ」的な、何でも現場に丸投げするような取り組み方では戦略が成功するはずもありません。実際、この会社の営業部長や工場長を含めた管理者全員が「当社には戦略がない」と感じていました。社長の言うことは、いつも口先だけで行動が伴わないと思っていたのです。

 

社長の仕事で、最も重要なことは会社を伸ばす具体的な方策を打ち出し、実行することです。何でも担当者任せにして良いと思うのは大きな誤解です。商品開発にチャレンジするにも、ある程度、経営サイドのお膳立てなり、段取り、道ならしをしてからでないと現場は動けません。戦略を成功させるには経営がしっかりと関わることが不可欠です。 

 商品開発を進める。ちょっと見方を変えれば、それは開発テーマに沿った「試作品創り」を重ねることです。とても、他の仕事を抱えながら片手間でできる仕事ではありません。

 開発業務の専任体制・定期的な開発会議の実施・予算の確保等、会社として本腰を入れて製品開発に取り組むという姿勢を示すことは、少なくとも経営の仕事です。決して現場の仕事ではないと思います。

  柴又香料は、これまで得意先からのオーダーにしたがって製品を作るという受注(請負)業を営んできました。だから、商品開発という開発業務の流れを、宮崎社長を含め誰もわからなかったのです。笑い話のように聞こえますが、それが多くの中小・零細製造業者が実態だと思います。

 

以下、一般的な新商品開発の流れを示すと

 

1.開発メンバーの選定(例え一人であっても)

2. 定期的な開発会議の設置

3. 開発方針の決定(これまでの製品情報・データの収集・分析) 

4. 開発テーマ・開発目標(試作品の件数)・期日・予算の決定

5. 開発会議の場での進捗度(試作品)の月次チェック

6. 試作品の絞込み

7. 新製品の発売決定

 

このような開発の体制・仕組みが整ってこそ、初めて商()品戦略を実行できるような下地が出来上がります。

  このような体制造りは、無論一担当者の権限だけでは出来ることではありません。柴又香料のケースでも、開発担当の福田課長には、これら一連のことを実行する権限が一切ありませんでした。社長自身も自ら何も動くことなく、ただ掛け声をかけるだけで全てを担当者任せにしていました。

 このような事実をないがしろにしておいて、部下の管理者に向けて「戦略がわからない」というのは、いかがなものかと思います。

 

どんな会社であっても、その成長のために社運を掛けて取り組むべきことは、経営が陣頭指揮を執って動くべきです。そうしなければ何事も進みません。何としてでも新しいビジネスを成功させるという、トップの「強い気持ち」が全社内に伝わってこそ会社の仕事として動いていきます。商品戦略であれ、営業戦略であれ、経営の動き方、仕事の進め方を見て、部下は戦略の意味や成功に導く具体的なやり方や方法を覚えるのです。

 自分がわからないこと、出来ないことは、部下もやろうとしません。それは(経営)戦略にも当てはまることです。

 戦略のない会社に、戦略のわかる幹部社員は育たないのです。

 

( 平成28716日 )        Ⓒ 公認会計士 井出 事務所

 

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