期待値(育成テーマ)の再確認

 

幹部社員の育成において、一番大きな問題は、彼らに「何を期待するのか。彼らにやって欲しい仕事の内容がハッキリしていない」ことが多いように思います。そんなことは、いつも口がすっぱくなるまで言っている。今更いちいち言わなくてもわかっているはずだ。ところが、日頃の動き方を見ていると、どうも大きな温度差がある。よくわかっていない。そう思っている上長の方がほとんどだと思います。

そこで、ちょっと試していただきたいことがあります。部下を呼んで「自分の役割、仕事の内容について、できるだけ具体的に細かく書き出す」という簡単なレポートを提出させてください。

 いつも言っていること(期待する仕事の内容・レベル)が、どれ位、そこに書かれているか。その内容を見てみると上長と部下の考えのギャップがどこにあるか、よくわかるでしょう。そこに書かれたことだけが現実です。

つまり、部下の頭の中には、そのレポートに書かれたことしか仕事の意識がありません。上長からすると、抜けていること。漏れていること。スッカリ忘れていることが沢山あると思います。

大きなボタンの掛け違いはここから始まっています。同じ会社で仕事をしている仕事仲間であっても、元をただせば生まれも育ちも違う他人です。日々の思いだけでは、こちらの考えは通じません。こちらは自身の考えをシッカリと伝えたつもりでも相手が聞く耳を持っていなければ向こうの頭に残りません。実際に多くの場合、それくらい上長の考えや期待値は伝わっていないものです。その点は、新人もベテランも同じです。

 

その原因はいくつかあります。日ごろ、後だしジャンケンみたいに、何かことあるごとに「ああしろ。こうしろ」といった指摘をするようなやり方では自身の役割は彼等の頭に入りません。その場では「わかりました」と言うでしょう。一度はシッカリとその言葉を受け止めたものの 何でもかんでもあれもこれもでは”結局日常の忙しさにまぎれて、いつの間にか忘れてしまいます。残念なことに、その場でメモを取っても、後で整理して纏める人など、そう多くはいません。

要は、その都度、口で言っただけでは何も伝わらないのです。口頭で伝えた言葉や話は、頭の片隅にその記憶が僅かに残っている程度のことが多いからです。

一方、部下の方にも、それなりの言い分があります。「上司からすると物足りないと思うかもしれないが、自分なりに頑張ってやっている。やらなければいけないことはよく理解しているつもりだ・・」それが彼らの本音です。 言葉として上から期待されている仕事その内容を頭ではわかっている。

でも、具体的にどのように動いて良いのか、わからない。だから、下にハッパをかけるような掛け声だけの動きしかできないのです。

特に「業務改善・クレームゼロ・業務効率アップ」といった日常業務にプラス・アルファーのチャレンジ・テーマを加えた仕事。あるいは「営業体制の改革・新規開拓・製品開発・サービス企画」といった新たな分野を切り開くような仕事では、その傾向が顕著になります。あまり経験の無い仕事だからです。

要は、具体的な仕事の内容、やり方に落とし込めないのです。自分がやらなければならない仕事の内容、やり方・方法が本当の所はわからない。それが、ハッキリとイメージできないので実際の仕事として進まないのです。

 

本当に部下を将来の幹部社員にしたいを思うなら、この上と下の考えギャップを、まず解決しなければなりません。そこで、役に立つのが先ほど提出してもらったレポートです。書面をたたき台にして話し合う。

 そうやって、お互いにその内容を確め合いながら共通認識を得る。確実に伝えるといった方法が欠かせません。文書をベースにして話のやり取りをする。多少面倒であっても実はそれが一番確実な方法だと思います。

そうれば、上が下に期待する仕事のテーマが「抜ける・漏れる」「忘れている」といったお互いのギャップは無くなるはずです。

また、その時点で、解決策や実行策について話し合うことも必要です。その方策の良し悪しについて意見を交換すれば、その仕事を下に任せて良いのか、荷の重い仕事かどうかどうか、直ぐにわかるからです。 

その手間を惜しんで何でも口頭で済ませようとするから「言った、言わない。聞いた気がする、聞いてないよ」という不毛な議論になります

共通認識を得る。正に、コミュニケーションの基本スキルが疎かになっていることに気付いていません。その現実が「伝えたつもり、聞いたつもり」という経営と現場の温度差です。だから、部下の指導、育成が上手くいかないのです。

「必ず、書面をベースにして共通認識を得る」ちょっとした何気ないことかもしれません。しかし、そこが「人の繋がりで動こうとする家業的な会社」と「組織的に動ける企業」の大きな違いなのかもしれません。

 

( 平成27128日 )         Ⓒ 公認会計士 井出 事務所