決算説明会の資料を活用した幹部社員研修の事例(その1)

  

前回に引き続き、当事務所がお手伝いさせていただいている、ある上場会社の「決算説明会の資料」を教材にした上級管理職(部長職クラス)研修の内容をご紹介しましょう。

 

現在、上場会社の多くは複数のビジネス(事業)を営む多角化経営を行っています。そこで、まずポイントになることは「稼ぎ(売上)」と「儲け(利益)」の違いをシッカリと理解していただくことです。

 売上が伸びていれば、それに伴い利益も増えるといった時代は90年代のバブル期前の話です。大雑把な金銭管理のことを、よく「どんぶり勘定」と言います。しかし、その実態は「掬っても掬っても(水が)残らないザルのような採算管理」にあります。

  忘れてならないことは会社を支え、成長に導くのは、稼ぎである「売上」ではなく、最終的に手元に残った利益(儲け)であるであることです。

売上至上主義の時代はとっくに終わりました。ビジネスをする以上、利益を出せなければ意味がありません重要なことは「採算性」の有無、その良否です。

 今は「事業別の採算管理」「製品別の採算管理」をベースにした「利益管理」が出来る経営でなければ、結果は残せません。「経営戦略の成果は何か」と問われれば、これらの事業別の業績(数値)に他ならないからです。

つまり「決算説明会の資料」を読む際は、経営戦略の成否を見極めるために、事業別売上の明細だけでなく、利益の明細も細かく見ていくことが大切です。そうしないと、経営基盤であるビジネス (事業)は何なのか、そのビジネスに将来性(成長性)はあるのかどうかがわからないからです。

   つまり、この研修の目的は「決算説明会の資料」から将来、どの事業が、会社の成長の軸になるビジネスなのか」その会社の経営戦略を読み、その成果の成否及び内容の適否を自身で考えることにあります。

 

 

   そのためには、実際の事例で、経営の実態を読み解くことが良いでしょう。そこで今回は、サッポロビールHD(以下、サッポロビール)の例を示します。

 

サッポロビールは ① 国内種類事業 ② 国際事業 ③ 食品飲料事業  ④ 外食事業 ⑤ 不動産事業 と言うように大きくつの事業を営む会社です。これらの内訳、明細を示すのが、下記のセグメント情報です。

  

稼ぎ頭の事業は、国内酒類事業で2,786億の売上があります。二番手は、食品飲料事業で1,378億、三番手は、国際事業で698億の売上を計上しています。以下、表の通り。

  一方、その事業別の儲けを示す営業利益はというと、儲け頭の事業は、国内酒類事業で、117億の利益を上げています。ところが、利益を出している二番手のビジネスは、不動産事業で112億、三番手は、食品飲料事業で5億の営業利益になっています。以下、表の通り。

                      17年 12月期                 単位:億円   
  国内酒類 品・飲料 国 際 外 食 不動産 その他
売 上  2,786 1,378 698 291 241 118
営 業 利 益  117 5 △ 12 3 112 0
 * 営業利益は連結消去前(全社共通費控除前)

 

  あらためて、サッポロビールの事業別の実績を良くみると、売上ベースでは、五番手だった不動産事業(241)が、営業利益ベースでは、二番手のビジネス(112)になっています。また、売上では、二番手だった食品飲料事業(1,378)は、利益では、三番手のビジネス(5)です。

 さらに、売上ベースでは、三番手だった国際事業(698)は、営業利益ベースでは、12億の赤字経営になっています。  

  

すべての事業が満遍なく、かつ堅調に利益を出しているとは限りません。シッカリと利益を出しているビジネスもあれば、業績が頭打ちで利益を出すのにアップアップしているビジネスもあります。。

このように、上記で指摘した「売上が大きければ、利益も確実に大きいとは言えない」ということ。そして「事業によって、かなりの収益力格差がある」ことを、まず確認していただきます。 

  

サッポロビールの「決算説明会の資料」は、この五つの事業ごとに17年度の実績分析を行っています。

この公開情報をたたき台にして「将来的に、どの事業が伸びしろの大きい事業なのか。業績が頭打ちになっている分野は何処か」を分析し、「今後、どの事業をベースにして、ビジネスの展開を図るのか」経営戦略の内容の適否、その成否を検討してみることにしましょう。

  

少なくとも、上記の数字を見る限り、現状、サッポロビールの主力ビジネスは国内酒類事業と不動産事業と言えるでしょう。この二つの事業で、ほとんど全社の営業利益を出しているからです。

 では、現在の主力事業である国内酒類事業とは今後も大きな成長性を期待出来るビジネスでしょうか。

  そこで、国内酒類事業と不動産事業に関わる「決算説明会の資料」の内容を検討して、この二つの事業の将来性について、もう少し掘り下げてみましょう。

  

 1.国内酒類事業  

 

国内酒類事業

 

15年度

16年度

17年度

売 上 

2,736

2,794

2,786

  業 利 益

86

117

117

 

 1.国内酒類事業の売上(2,794億)は、対前期比で7億のマイナスなっています。その主な要因として、二つのプラス要因と一つのマイナス要因を

上げています。 以下、上記資料の文言のまま。

 

   37 :ビール

   17億:RTD/ワイン/和酒他 

      * RTDready to drink缶酎ハイや瓶入りカクテルなど

    55億:発泡酒/新ジャンル

            * 麦ポップ・ノンアルコール・強アルコール・など

 

2.国内酒類事業の営業利益(117億)は、前期比0で変わらずですが、その内訳の主な要因として、三つのプラス要因と二つのマイナス要因を上げています。 以下、上記資料の文言のまま。

  

    +7億 :ビール販売数量

    +17億:品種構成/ノンアル/RTD/製造原価他

    +7億 :ワイン・スピリッツ

    25:発泡酒/新ジャンル販売数量    

   -6 :設備費(+1億)・人件費(-4億)・その他(-3億)

 

 ちなみに、前年度決算発表時の売上目標は+65億の2,860億で、営業利益目標は、+-0118億でした。

消費者の嗜好の変化が激しいお酒の業界では、大きなビジネスチャンスがあると同時に、その反面大きなリスクがあるとも言えます。「恵比寿・黒ラベル」といったトップブランドの売上が期待通りに伸びたにもかかわらず、発砲酒等、他の種類の売上が大きく落ち込み、その影響で、結局売上は7億減少しました。

その一方で、営業利益は目標値(対前年度比0)を達成しています。利幅(粗利)の良いビールやワイン等の販売量が伸び、原価率の高い(粗利の低い)発泡酒・新ジャンルの落ち込み人件費等の販管費の増加分をカバーしました

この資料の「品種構成」の指摘の通り、今後も「重点販売商品の絞込み」といった戦略の適否が益々問われる状況です。国内酒類事業の業績は数値的には概ね堅調ですが、先の読めない予測の難しいビジネスでもあり、予断を許さない厳しい経営環境であると言えます。

 

2.不動産事業

  

不 動 産 事 業

 

15年度

16年度

17年度

売 上 

208

229

241

  業 利 益

82

103

112

 * 営業利益は連結消去前(全社共通費控除前)

  

1.不動産事業の売上(241億)は、対前期比で12億のプラスになっています。その主な要因として一つのプラス要因を上げています。以下、上記資料の文言のまま。

 

12 :銀座プレイス

  

2.不動産事業の営業利益(112億)は、対前期比で9億のプラスになっています。その主な要因として、一つのプラス要因を上げています。以下、上記資料の文言のまま。

 

9 :銀座プレイス

 

  ちなみに、前年度決算発表時の売上目標は+8億の237億で、営業利益目標は+6億の109億でした。

  二番目に利益を出している不動産事業の内容は、この会社の本社に隣接する恵比寿のガーデンプレイス及び銀座プレイスに関する賃貸収入です。前者の稼働率が98%、後者の稼働率が99%と高く、ビジネスとして好調です。

 しかし、いずれも古くから所有する不動産の活用であり、デペロッパーとして不動産開発ビジネスを積極的に展開しているわけではありません。

  よって、今後の事業の成長性と言う観点からは一杯一杯の状況ではないか思います。

  

 ここまで、好調な主力事業の推移についてみてきました。しかしながら、サッポロビールの今後のビジネス展開を読み解く上で、売上の25%を占める食品飲料事業、同じく12%強である国際事業の実情を十分に検討することは欠かせません。特に、近年海外で積極的にM&Aを展開している国際事業については、要注意だと思います。なぜなら、17年度は、12億の赤字を出している状況だからです。

 この点については、また「決算説明会の資料」をもとに、次回のコラムで書きたいと思います。

  

( 平成301022日 )       Ⓒ 公認会計士 井出事務所