決算説明会の資料を活用した幹部社員研修の事例(その2)

  

サッポロビールの「決算説明会の資料」を使った幹部社員研修の事例の二回目です。前回は、主力事業である国内酒類事業と不動産事業について検討してみました。

 今回は17年度に業績の芳しくなかった国際事業と食品飲料事業に関わる「決算説明会の資料」の内容を検討して、これら事業の将来性について考えてみましょう。 

 

 3.国際事業

  

国 際 事 業     

 

15年度

16年度

17年度

売 上 

705

654

698

  業 利 益

1

9

-12

 

  1.国際事業の売上(698億)は、対前期比では、44億のプラスになっています。上記、資料によれば国際事業の業績を、北米酒類、北米飲料、ベトナム、その他アジア(韓国・シンガポール・台湾)の四つの分野(セグメント)に分けて説明をしています。しかし、その明細はあまり具体的に示されてはいません。以下、同資料より読みとれるデータを列挙します。(数値、文言は記載通りのまま)

 

 北米酒類:スリーマン社/+4億、北米サッポロ/3億、

      アンカー社(新規連結)/8億、為替要因/18

 

 北米飲料:シルバー・スプリングス・シトラス社(以下SSC社)/10

      カントリーピュア・フーズ社/9億、為替要因/9

      ベトナム:-1億

       その他アジア:輸出その他/+4億(韓国/対前期比196%)

 

国際事業は、対前期比で44億の売上増ですが、注目すべき点は、為替要因(差益)によるものが、酒類で18億、飲料で9億、計27億あることです。また北米飲料の売上は、最終的にプラス8億ですが、その中にSSC社の-10億が含まれていることを忘れてはいけません。最大のマイナス要因であるSSC社の著しい売上の減少は前々年から続いており、業績回復の手が後手に回っていると思わざるを得ません。

 

     SSC社(シルバー・スプリングス・シトラス社):2012年に買収した

   PBチルド飲料メーカー

  ・SSC社売上:15年度売上122億、16年度売上100億、17年度(前期)売上91

  (16年度比91%)

  ・外部環境として、米国のオレンジ・ジュース消費減退・フロリダオレンジ

  高騰

  

 2.国際事業の営業利益は、マイナス12億の赤字です。ところが、対前期比でみると、マイナス21億の減少になっています。その増減の主な要因として、2つのマイナス要因と一つのプラス要因を上げています。

 

  12億:品種構成/減価等

     * 北米酒類は好調 * SSC社の業績悪化が要因

  11億:販促費-3億、アンカー取得費用他-7億、その他経費-1億 

      + 2億:ベトナム

  

国際事業の業績の状況は上記の通りです。ここでも、国内酒類事業と同じように、成長分野と縮少分野があります。ただ異なる点は、マイナス部分の方が大きく最終的に赤字になっていることです。

  また、売上伸長の部分の約2/3が為替差益であることを考えると、M&Aによる国際事業が、今後、会社を支える成長ビジネスになるのかどうか。その点は大きな疑問点です。特に、北米飲料のSSC社については、業績回復の可否を軸に戦略的な岐路に差掛かっているのが現状です。

 

 4.食品・飲料事業

  

食 品 飲 料 事 業

 

15年度

16年度

17年度

売 上 

1,356

1,379

1,378

  業 利 益

1

13

5

 

  1.食品飲料事業の売上(1,378億)は、対前期比で、プラス・マイナス・ゼロです。上記、資料によれば、食品飲料事業の業績を、国内食品飲料と海外飲料カフェ他の二つの分野(セグメント)に分けて説明をしています。

 国内食品飲料でマイナス4億、海外飲料等でプラス4億の売上になっています。海外飲料等の明細をみると、為替要因でプラス6億、ポッカコーポレーション・シンガポールで、マイナス9あります。

 

 2.食品飲料事業の営業利益(5億)は、対前期比では、マイナス8億になっています。上記、資料によれば、

  

 国内食品飲料:+16/数量品種構成でプラス9億、製造コストでプラス7

         費 :-5/販促費(広告宣伝費費等)

         その他固定費:-8億(運搬費/人件費等)

             海外外食 :-10

 

低迷している国際事業と食品飲料事業に共通して言えることは「トップライン(主力製品)の強化」という戦略は成功している一方で、マイナス要因となる「大きな取りこぼし」があることです。また、その多くが「海外で発生している」こと。この2つの共通点があります。

 

そこで、思い出されるのが、日本郵政が173月期に、オーストラリアの物流子会社・トール社に関わる4,000億円の損失を計上し、最終的に400億円の赤字になったこと。また同時期に、東芝が米国の子会社ウエスチングハウスに関わる7,000円の損失を計上したことです。

 

このような在外子会社に対する経営のガバンナスの緩さと脆さは、最早、グローバル経営における日本的経営の特徴のひとつと言えるでしょう。「任せる」と言うことの意味は「任せたからには一切口出しをしないことでも、目を離しても良いこと」でもありません。国内・海外にかかわらず、その点を勘違いする従来型の日本流の経営ではM&Aを用いた海外戦略が上手くいくとは思えません。

   数字を軸にした「シビアな経営」と「経営体制の強化」が急務ではないでしょうか。それは、視点を変えれば経営人材の育成とイコールです。

 

以上、サッポロビールの1712月期の「決算説明会の資料」から、この会社の経営の現状について、振り返りをしてみました。このコラムで記述した内容が、全て正しい、あるいは適切であるとは思いませんが、公開資料に対する第三者的な見解としては概ね妥当であると思います。

 

経営として将来に向けて色々な選択肢が考えられますが、大きな方向性のひとつは、今の主力事業を伸ばしていくことでしょう。一方、もうひとつの方策は、不振事業を梃子入れすることです。加えて、不採算事業(ビジネス)から撤退することも止むを得ないことかもしれません。他にも、新しいビジネスに進出することも考えられます。そのいずれかを選択し、判断することが経営戦略ではないでしょうか。

  

実際の研修の場では、時間の関係もあり、ケーススタディーの会社の経営戦略の適否を読み込むことは難しいと思います。しかしながら、経営数値の意味を読み解きながら、その点を自身の頭で考えることが、この研修の大きな狙いと言えます。これらの一連の思考が経営の判断力を養うことになるからです。

 

 (平成301122日)        Ⓒ 公認会計士 井出事務所