現場責任者(管理者)からの脱皮

 中小企業の社長さんにとって信頼できる経営幹部の育成は永遠の課題だと思います。社の戦略とか社内体制について、気兼ねなく相談できる人が、もし社内にいたら、どれほど心強く思うことでしょう。

しかし、現実は現場の責任者や管理者としては、それなりに仕事が出来るレベルと思うけれども、経営幹部と呼ぶにはマダマダ物足りない。

何故ならば、経営の視点、経営マインドに欠けるからです。

どうしても営業、工場、調達、開発といった自部署の効率やペース・やり方を最優先してしまいます。会社全体の利益よりも、自部門中心のいわゆる縦割り思考しかできません。

昔から製造業で業績が下がってくると、必ず起きる社内の対立があります。営業は「自分たちがこんなに頑張って仕事をしているにもかかわらず、製品が売れないのは、競争力のある製品が作れない生産部門、工場に大きな問題がある」と言います。一方、製造部門サイドは「自分たちがこんなに良い製品を造っているのに売上が伸びないのは営業がサボっているからだ」と言い張ります。

 各部門の責任者がこんなことを平気で言うようでは困ったものです。他部署に責任を転嫁しているだけで「何が経営上の本当の問題点なのか」その事実を探り解決していこうとするスタンスが感じられないからです。

現場の親分感覚では経営の仕事は勤まりません。経営層と呼ばれる幹部社員の人たちは、業績や会社全体の利益、業務効率を最優先する思考回路を持つことが求めれます。 

 

鋼材・鋼板の素材販売とその切削・プレス等の金属加工を行う出雲工業では「得意先からのクレーム発生。それに伴う受注減」という大きな問題を抱えていました。特に、切削・プレス等の加工品にクレームが集中していました。 このままでは会社の存続自体が危ういと感じた、2代目社長の出雲さんは、営業部長と工場長を呼び寄せ緊急の対策会議を開きました。

ところが、クレーム発生の原因について話し合うと、営業部長も工場長もお互いに自部門の言い分を言うことに終止してしまいます。

他方の責任や能力不足を指摘するだけの水掛け論をお互いに繰り返すばかりで一向に埒が明きません。双方の不毛な意見の内容は以下の通りです。

 

 工場からすると

 ① 当社では、既存スペックの変更や新スペックの製品受注の場合は     「受注内容確認書」に顧客の要望事項を細かく記入することに

  なっているが、その記入内容の漏れ・抜け・忘れが多い。

 ② 営業が、実際の仕事で欠かせない製品スペックの「技術的な確認

 事項や細かな注意事項」がわからない。

 ③ そもそも営業が、受注の際に基本的な(技術的)確認事項や注意事項   を理解していない。にもかかわらず、数字欲しさに何でもかんでも

   安請け合いをしてくる。

 ④ 既存製品のスペックの変更にしても新スペックの製品にしても、短納   期の飛び込み注文が多い。ひどいときは納期の3・4日前、早くても2週   間前と言うことが多い。

 ⑤ 一週単位での生産計画の修正・変更を余儀なくされ、急な残業が増え   ている。

 ⑥ 工場には工場なりの予定や都合がある。これからは工場の稼動状況を   確認してから納期を得意先に回答するシステムに変えて欲しい。

 

営業からすると

 ①       受注内容確認書は顧客の指示通りに記入している。製造上のミスは、   出荷時の最終製品のチェックが甘いからで、工場の品質管理力を含め  「単に、工場の技術レベルが低い」と言い張るだけである。

 ② 如何に急な注文であっても仕事を断るわけにはいかない。それ(納期)   に対応するのもメーカーとしての技術力の一部である。

 ③ 工場はいつもフル稼働の状況ではない。

 

どちらも視野の狭い意見で残念だと思います。この会社では「経営会議、定期的な製販調整会議」といった、各部署のリーダーが一堂に会して話し合う仕組みがありません。定期的な会議と言えば毎月営業会議があるだけです。その営業会議にしても、内容は月次の実績報告会に終止し、新規開拓を含めた今後の展望や動きを話し合う場ではありませんでした。

工場にいたっては毎朝簡単な朝礼をするだけです。ミスやトラブルがあった時も、工場長は担当者への注意だけで問題は解決すると考えており、反省会を開いて皆で改善策を検討することもありませんでした。

要は、出雲工業は、名前は会社であっても、その実態は部署の寄せ集め、担当者の寄り合い仲間でしかないのです。だから自部署中心の考えしか頭に浮かびません。経営が、仕事を現場任せにしているとこういう状況になりがちです。厳しい表現をすれば、経営不在の会社・名ばかり社長の会社です。

不思議なことに、こういった会社の経営者()の人ほど「キーマン(後継者を含む)になる人材がいない」と口にします。

 

 この会社のように、企業経営の軸になる会議体が無いと、経営幹部になれる人材は育ちません。各現場の責任者が「会社の業績。現状の仕事のやり方の良し悪し」あるいは「会社の将来像。進むべき方向性」について、定期的に考え、話し合う場が無いからです。

そのせいもあって、自身が経営の一角を担う立場にあることを忘れてしまうのです。役員だから、部長だからという役職・立場の問題ではありません。

現場の責任者としての役割認識の問題です。

経営会議や各部門の全体会議は、経営の仕組みを学ぶ場であり、次世代リーダーを育てる仕組みでもあることを忘れてはいけません。

部署の代表者として、自身の頭で「こうあるべきだ」という会社経営のあり方を考え、自分の意見を会社に発する機会が無ければ、誰しも目先の自分の仕事にしか関心を持ちません。「経営は社長が勝手にやっていることだから」という考えしか彼らは持たないでしょう。それ故、会社の業績についても、将来についても、考えようとしないのです。

 

もし「将来の会社のキーマン」を育てたいと思うなら、現場の責任者(管理者)を、経営の現場に巻き込む仕組みを創るべきです。それが経営会議に他なりません。いつも社長の独断専行の会社ではいつまでたっても下は育ちません。彼らの意見を引き出す、彼らに任せることも大切です。

会社の現状について、情報を共有し、ひとつの共通認識のもとで、各自の立場から意見を言い意見交換をする。全社的な視点で考える機会を定期的に持つ。そうして経営マインドを身につけてもらうしかありません。

 会社の勤め人が、会社経営の仕方、経営の仕組みを学ぶ場は「自分の会社のやり方」以外にないのです。

 

( 平成27921日 )        Ⓒ 公認会計士 井出 事務所

 

 ▶ 関連項目:担当者任せにしている限りは、会社は成長しない

                              経営会議を通して幹部社員を育てる

          経営計画や予算管理を通して幹部社員を育てる

            ローテーションと若手の登用