(経営)幹部候補生研修 その2

 

 先回は、大企業の経営幹部候補生研修の一端を少しだけ紹介させていただきました。折角の機会なので「経営数値による自社分析、現状分析」の具体例を引用して、もう少し詳しくその内容を見ることにします。

ここで、私が皆さんにお伝えしたいことは、財務分析の方法、もしくはその分析結果の内容の良し悪しではありません。財務分析研修の活用法についてです。特に、幹部候補生を対象とする研修では(知識の)お勉強の世界になっては意味がありません経営者として「経営数値と言う事実をどう受け止め、今後どのような戦略を展開するのか。現状の問題をどのように改善するのか」ということを考えるのが最も重要な狙いです。

過去5年間の経営数値の推移を追っていくと「戦略的に動いている会社かどうか。自社の現状分析が客観的に出来ている会社か」良くわかるからです。

 

ここでは、今年話題になった大塚家具さんの事例を使わせていただきます。お手数ですが、Googleで「大塚家具 人件費」または「大塚家具 賃借料」で検索してください。すると、何社かが解説している大塚家具の財務分析の事例があります。わかりやすいものを選んで読んでみてください。指摘している内容はほとんど同じです。

この会社の場合、リーマンショック以降、売上が、83月期668億円から143月期555億円へと約17%も落ち込んでいます。

公開されている情報では、応接品とか寝具・収納といった「商品別の売上」「商品の価格帯別売上」あるいは、一般家庭用・業務用といった「顧客()別売上」のような売れ筋情報や死に筋データがオープンになっていません。

したがって、これまでの販売戦略の具体的な内容やその巧拙は残念なことに窺い知ることはできない状況です。

* 同社のHPで公開されている経営計画では、今後の具体的な取り組み(戦略)について明確にしています。

その一方、売上の減少に歯止めがかからないにも関わらず、費用構造の改善が進んでいません。特に、人件費と賃借料に大きな問題があります。

この二つの費目が、本業の儲けである営業利益を大きく圧迫しているのです。その原因は「大型ショー・ルーム(店舗)による接客販売」という、この会社のこれまでの販売戦略に起因しています。ついに、143月期は、営業利益ベースで4億円の赤字になっており、そこには「戦略転換の遅れ」もしくは「戦略不在」の姿が見て取れます。

そもそも大塚家具の「豊富な品揃え、イコール広い売り場、接客販売」と言う戦略は、一歩間違うと在庫過多、過剰在庫になるリスクがあります。それと共に、店頭販売員の増加による人件費や販売・保管スペースの維持コスト(賃借料)といったコストを巧くコントロールしなければならない販売戦略でもあります。

もうひとつの重要課題である過大人件費の原因は、過剰人員と過大給与という二つの側面が考えられます。この会社の場合、人員数は、83月期1,678人から143月期1,749人へと増加しており、また一人当たり人件費も6,104千円から6,294円に増えています。おそらく販売員を増やすことで、売上の減少を回復しようとしたのでしょう。接客販売と言う手法にこだわった結果が裏目に出たと推測されます。残念なことに現実は、人員数の増加という高コスト体質だけが残ってしまいました。

過大賃借料費の原因は、過剰(販売・在庫)過去スペースと過大㎡単価という二つ視点から推測できます。

売り場面積は、83月期177,590㎡から143月期154,055㎡に縮小しており、㎡当たり賃借料も66.1千円から66.0千円に下げています。しかしながら、売上の減少に伴うコストの圧縮が追いついておらず、こちらもまた後手に回っている印象は否めません。

 

上級管理者もしくは幹部候補生向けの財務分析の狙いは、自身が経営者だったら「この先どうするのか。何をしていくのか」という当事者意識を持ってもらうことにあります。要は、経営の当事者として、どこまで深く考えることができるかと言うトレーニングなのです事例会社の問題点やその発生原因を探ることだけでは物足りません。

会社によっては、現状分析と今後の対策についての議論を深めるために、株主総会のシミュレーション形式による会社側対総会屋といったディペートをすることもあります。

 営業部長の方であろうと、購買部長の人であろうと、兎角、人は自分の仕事、自部署のことしか考えようとしません。自身が権限を持っていないことは考えてもいません。他部署のことは関係ない、責任はないと思っている。だから、「会社(事業)の採算性」という「経営マインド」を忘れたまま仕事をしてしまうのです。

少なくとも、将来の経営陣の一角を担う人材であるならば、全社的視点で考えることを常に念頭に置いて欲しいものです。見方を変えれば、商売感覚を持つことです。「数値からみた経営」を忘れて欲しくはありません。

 

( 平成271010日 )         Ⓒ 公認会計士 井出 事務所