日産の志賀社長が、社長になったのは、まだ「ゴーン改革」という言葉が強く耳に残っていた平成17年、52歳のときでした。当時、売上規模が1兆円を超える上場会社での、50代前半の社長就任は極めて珍しいことでした。

そのとき私が直感的に思ったことが2つあります。ひとつは「日本の社長が一世代若返りをする」ということです。もうひとつは「研修のサイクルが12年前倒しになる」という予感です。

実際、それから数年たって、大手都銀では5人同時に48歳の執行役員が誕生しました。今では大企業でも40代での経営層への登用は当たり前のことになってしまいました。50歳前後で社長になるには、それまでに経営戦略や経営計画の立て方、マーケットの読み方など、経営一通りのことをマスターしていなければなりません。そのためは少なくとも、30前後から抜擢人事による将来の経営者向けの教育が必要になります。

今回は、このような経営幹部候補生向けの研修の内容について紹介しましょう。会社によっていろいろなパターンがありますが、最も基本的なパターンは自身の事業部の戦略を立て、それを経営経画()にまとめることです。まさに、自事業部の経営企画業務を担うことと同じ内容です。

会社によっては、販売予算や(製造)原価予算の管理といった数値目標を設定し、目標達成状況の管理といった実行する処まで踏み込みます。

研修プログラムの基本的な進め方は「マーケティング・財務・組織」といった戦略立案の基礎になる経営知識を前半で学んでいただき、それをベースに、自部門の現状分析やマーケット分析を行います。最終的に事業部の中期戦略を立て、経営計画にまとめる処までが主な研修内容になります。

これらを、約半年から10ヶ月をかけて、毎月一回の割合で行い、最後は事業部長にプレゼン(発表)して終わります。

昨今では、戦略の内容がビジョンとか方針・方向性と言った抽象的なレベルに留まっていては認めてもらえません。数値目標を設定し「数字の根拠」結果を出すための「具体的な方法の有無、良否」まで問われます。

ですから、プレゼンの内容、その詰めのレベルや実施方法の具体性等、その時点で経営幹部としての適正がわかります。

 

幹部候補生研修のプログラムは、社長訓示、ガイダンスの後、だいたい「財務」すなわち経営数字の研修から入ります。近い将来、数字を背負って仕事をする立場になる人たちです。その意味や読み方がよくわからないようでは仕事になりません。経営成績と言う言葉があるように、決算書の数字は決して偶然の結果ではないはずです。数字には必ず意味があります。経営努力の結果である数字以外の何物でもありません。今年度の目標値があって、それに対する実績です。それ故、一年間の経営活動の是非を確かめる意味でも、数字から見た現状分析が、スタートのカリキュラムとして効果的なのです。 

一口に業績と言っても色々な見方があります。売上という稼ぎの視点もあれば、利益という儲けの視点もあります。また利益にも「営業利益・経常利益・当期利益」といったように幾つかの異なる「儲けの考え方」があります。売上さえ伸ばせば、それに伴って確実に利益も増える時代ではありません。同じ業界で、同じ商品・製品を扱っていても会社によって取れる利幅(粗利率、売上総利益率)も異なります。その会社の商売のやり方、仕事の仕組み、お金の管理の仕方によって、会社の利益は違ってくるのです。

よく言えば、それらはその会社の個性、体質かもしれません。しかし、それは他社よりも優れた結果を出しているから言えることであって、そうでなければ改めなければならない経営課題です。

 

将来、経営責任を負う彼等に学んで欲しいことは決算書の数字の見方ではありません。そこから自社の問題点を洗い出すスキルです。それに加えて、その解決策を考える頭が求められます。「営業だ。工場だ。サービスだ。購買だ」と言う現場感覚から抜け出して、全社的な視点で、当社が直面している難問を解決することが大切です。

 現状の改善点を洗い出し、その実行策を成功させる。その結果が、まさに決算書の経営数値になるからです。経営のプロは「仕事のやり方や仕事の仕組み」と「経営数値」を表裏一体のこととして発想できます。

「目標を達成する」即ち、業績を伸ばすには、当社が直面している難題をひとつひとつクリアーしていかなければなりません。それが成功しなければ経営数値の改善などありえないのです。

実際、伸び悩んでいる会社ほど社内に多くの問題点を抱えています。

その典型例が「次のビジネスの柱になる新製品・新商材が見つからない」「待ちの営業、守りの営業体質から抜けられない」といった問題です。

シビアな言い方をすれば「(経営・営業)戦略のない会社・戦略の見えない会社」です。

 業績の低迷のような問題は一朝一夕に解決できることではありません。「石の上にも三年」といった発想で取り組まなければ、その成功は覚束ないでしょう。営業を始めとして、各部署の日々の仕事のやり方自体を見直す業務改善。仕事の仕組みそのものを変える、会社全体の体制を刷新するといった業務改革の推進こそが最初にチャレンジすべき経営努力の内容です。

 日々、会社の数字と向かい合って仕事をし、結果を出さなければビジネスマンとしての力は付きません。そのためには、自らビジネスのチャレンジ・テーマ(戦略)を掲げ、それを実行し「自分で考えて、自分が動く」というビジネス感覚を身につけるしかありません。業績の伸長・経営数値の改善は、その先の先にあることです。そのことをシッカリと胸に刻んで欲しいと思います。 

 

 ( 平成27102日 )         Ⓒ 公認会計士 井出 事務所


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