伝えることも仕事のうち

 

前回のコラム「喋る・話す・伝える・告げる」の話を具体的な職場のコミュニケーションの状況に置き換えてみましょう。部下に「言ったことが伝わらない」「話したことを聞いていない」との思いを持つ上司の方は多いと思います。

注意事項が守れない。「駄目出し」が駄目出しとして通じない。聞いたけど頭に入らなかったのか。聞いたけど忘れたのか。それとも、そもそも聞いていないのか。そのいずれか、分かりませんが「言った。言わない」「聞いた。聞いていない」はビジネスでは不毛な議論といえるでしょう。

 

 上司と部下のミス・コミュニケーションの原因は、往々にして聞き手側にあると思われがちです。ところが、その実情をよく見てみると、それは聞き手だけの問題では無いようです。 

 上司本人からするとハッキリと伝えているつもりでも、聞き手の部下からすると良くわからないことがあります。昔から部下からの上司に対する不満として「指示の内容がハッキリしない。言っていることが良くわからない」ということがあります。

 「言ったつもり、伝えたつもり」が、いつの間にか言い放しになっている。そして、何のフォローも無いまま、そこで終わっている。それがもとで、何かしらの不手際やミスがあり、それがまたトラブルやクレームにつながっている。大変残念なことですが、何処の会社でも良く見かける職場のミス・コミュニケーションの実情です。

 職場のコミュニケーションでは、伝え手である上司の方にも注意すべき点が多くあるように思います。

「通じる。通じない」は伝え方の違いによって変わってくるからです。  

 

 先日、あるアパレル会社でこんなことがありました。シーズン商品を扱う業界では毎年2回位、その年の季節商品提案を行うのが慣わしになっています。

 その会社では、かねてから取引先から「企画書の提出が遅い」と言われており、先月の営業会議でも各担当に「企画書の提出のスピードアップ」を指示していました。

 ところが、そんな矢先、ある大手の取引先から「いつになったら、おたくは(秋冬物)企画書を持ってくるのか。やる気があるのかどうか、分からない」とのクレームを頂戴してしまいました。

いつも、あれほど「口を酸っぱくして言っているにも関わらず」とそこの営業部長は嘆いていました。

 

 日々の仕事の流れの中で忙しさに追われていると、誰しも目先のことしかわからなくなってしまいます。仕事を溜め込むと目の前の仕事を片付けることばかりに眼が向いてしまいがちです。すると、ツイツイ取引先への企画書を作成することよりも営業日報を書くような社内業務を優先してしまいます。

 このようなとき、上司の指示の仕方ひとつで部下の仕事の流れやその完成度に違いが出てきます。

 

 もし皆さんが、この会社の営業部長だったならば、先月の時点で部下にどのような指示の仕方をしますか。どのような伝え方をすれば、部下が納得して受け入れてくれるでしょうか。

効果的な指示の出し方について検討してみたいと思います。いずれにしても、これまで通りの伝え方では、指示内容の徹底は難しいと思います。

 

 提出期限の厳守を徹底する。それを強く伝える話し方の事例のひとつを挙げるならば

「皆さんは、覚えているかどうかわかりませんが、昨年A社から『企画書を持ってくるのが遅すぎる』とのクレームを頂きました。今年はこのようなことが絶対に無いよう遅くとも来月の2週までに、必ず提出してください」

 

 まず、話の冒頭に企画書の提出期限を守ることの重要性を訴えることが欠かせません。この会社の営業の最大の問題点は「企画書の提出が遅い」そのことの重要性を各担当がよく理解していないことです。

取引先に迷惑をかけている重大性をわかっていないから聞き流している。ですから、そのことをまず告げなければなりません。ことの重要性を確かめることからまず話すべきでしょう。そこが漏れているから伝わらない。そこが抜けた話になっているから部下が聞き流してしまうのです。

その前振りをしてから、具体的な提出期限を指示すべきだと思います。

 

 勿論、絶対に正しい伝え方、言い方はないでしょう。しかし、様々な状況を考慮すれば、何を強調すべきか。何処まで細かく話をすべきか、というのは、ある程度のキャリアのある管理者ならば分からないと困ります。

どのように話せばちゃんと部下に伝わるのか。どういう点に注意すれば「こちらの考えや思いが確実に伝わるのか」上司は上司としての話し方を考えるべきではないでしょうか。

職場のコミュニケーションの問題は「他人の話を聞いていない」と部下のせいにするだけでは何も良い方向に進みません。部下が、上司の指示の内容を正確に理解し、彼らがその指示通りに動けるように伝える。

その話し方、伝え方を工夫するのも上司の仕事、役割の一部だと思います。

それを疎かにしている限り、コミュニケーションの改善は難しいでしょう。

                         

 先の事例からもわかるように職場のコミュニュケーションに関わる「上司の指示」の意味は「告げる」でなければなりません。「告げる」ように、その仕事をやる理由を明確に伝えなければ部下に通じないのです。 

思いつきで話をしても部下(相手)には何も伝わりません。言葉にしたい思いがハッキリとしているから聞き手もそれを感じてちゃんと耳を傾けるのです。明らかな考えがあってこそ、伝わるものがあります。

ですから、リーダーたる者、不用意に言葉を口にするのではなく、自身の頭を良く整理してから話す。考えをシッカリとまとめてから話すべきでしょう。 話す目的や言葉の意味を良く考えて、話をするように心掛けたいものです。

 

 つい先日「渋谷のDJポリス」が、様々なマスコミで取り上げられ話題になりました。彼は現場で言葉を投げかける前に、その言葉を十分に研究して当日のアナウンスをしています。思いつきやアドリブで言葉を発した訳ではありません。用意周到に準備した群衆誘導(交通整理?)のシナリオを描き、それを実行するセリフがあったのです。練りに練った言葉のフレーズを用意して、DJポリスは仕事に臨みました。

 実際、多くのマスコミが報じた理由は、正に「言葉の力」と「その伝え方の巧みさ」についてでした。彼は自身の職務を遂行するための研究を怠らなかったのです。

 リーダーの立場にいる人は、その事実を見落としてはならないと思います。

 

  ( 平成25712日 )        ©公認会計士 井出事務所 

 

  ► 関連項目: 喋る・話す・伝える・告げる

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