挨拶も仕事のうち

 十年以上も前の話ですが、ある会社の新入社員研修でこんなことがありました。新人担当の人事課員が「上司や先輩には必ず挨拶をするようにしてください」と話した時のことです。ある新人が手を上げて「挨拶も給料の一部ですか」と質問をしたのです。当時は呆れて返す言葉もないと言う感じでした。しかし今になってみると、担当者であるならば、即座に「そうです。職場の周囲の人達への挨拶は給料の一部です。職場の一員としての職務と考えてください」と言うべきだったのではないでしょうか。 そうすれば、挨拶はやらなければならない仕事という意識が生まれ、周囲への挨拶をするようになったかもしれません。挨拶をしないのは、挨拶をしなければならないという意識が無いからです。  

 

 話はちょっと変わりますが、メーカーに行くと、必ずと言って良いほど「コスト意識」という言葉を耳にします。経営や管理者が「どうも、うちはコスト意識が足りなくて困っています」と口にしています。 

その一方で、コスト意識の高い会社も実際にあります。この違いは何処から生まれてくるのでしょうか。 

 言うまでも無く、コスト意識を持って入ってくるような新入社員はまずいません。ですから、その意識の差は入社した後の社員教育、会社の仕事の仕方の違いによって出てきます。

日頃から上司が「仕事の無理・無駄・ムラは、時間の無理・無駄・ムラであり、ひいては、それがお金つまりコストの無理・無駄・ムラに繋がっている」と口を酸っぱくしてコストの意味を徹底している会社とそうでない処では、やはりコストに対する考え方や意識も違ってきて当然です。

コストや支出の予算管理を月次の定例会議で厳しく徹底している会社とそれが甘い処では、その意識レベルに大きな差が出ても仕方がないと思います。

 

 部下の意識が低い。勉強不足と嘆く上司は多くいます。しかし、このコスト意識の話からわかるように、要は日常的な仕事のやり方に対する気持ちの持ち方、仕事の進め方への考え方の差からその違いが生まれてきます。

 先ほどの話に戻れば「挨拶が職務」であるならば「コスト意識を持って仕事をすること」も職務であると言えます。そして、そのように部下を指導することも上司の職務だと言えます。

「やったやらない。できたできない」の線引きの厳しい会社は、仕事にシビアな意識を持って仕事をしている人が多くいるものです。逆に、その辺の線引きがあやふやになっている会社は社員のモラルや責任感も低いものです。

 

 勿論、本人の意欲や能力の問題もあります。上司の指導力の問題もあるでしょう。しかしながら、その本質は職務を徹底する会社の仕組みの問題と考えるべきだと思います。職務としてやるべき一人一人の仕事のやり方や進め方がハッキリしているようでハッキリしていないからそうなってしまう。

  多くの場合、会社の期待する仕事の内容、やり方、進め方を上司がしっかりと部下に伝えていません。ですから、どうしてもこれらの内容が全て担当者任せになってしまいます。その結果、担当者によって仕事のレベルがバラバラ、人によってやり方がマチマチということになります。それに加え、上司が指導すべき仕事の内容や指導方法もその上司任せになっています。

だから教える人によって部下の仕事のレベルや方法に差が出てしまいます。このような状況では上司も部下も共に納得できるような仕事はできないでしょう。

 

 このように考えて見ると、会社の期待する仕事の実行力を身につけるには、上司も部下もお互いに「やったやらない。できたできない」の基準となる仕事のレベル、方法への共通認識を持つことが大切なことがわかります。

「挨拶も仕事」とハッキリさせれば仕事になように、仕事としてやらなければならない仕事の内容。職務としてやるべき仕事のやり方、進め方を明確にしなければ、これらの内容を徹底することは難しいと思います。

 会社として社員に期待する仕事の内容、自部署として部下に期待する仕事のやり方、進め方を明らかにすそうすれば、自然とそれが職務を徹底する仕組みのベースになります

 

 (平成24年10月1日)           ©公認会計士 井出事務所