上司の言葉が職場を変える(提案営業の問題点)

 

管理者研修で実績のある㈱S研修協会は、社員30名、売上7億強の中堅の研修会社です。この会社の営業部門では、毎年、盆休みの時期に、来年4月以降の実績確保に向けての打ち合わせ(新規営業の戦略会議)を、まる1日かけて行っています。

 

と言うのも、取引先の研修担当者は、4月からは新入社員研修、それが終わると息つくひまもなく5月の中旬から今度は新任管理者研修が始まり、ようやく少し落ち着けるのはお盆休みという感じです。そこまでは、とても新しい研修企画に頭が回る状況ではありません。当然、新規の提案もお預けです。

 

ですから企業研修の営業は、実質的に毎年8月下旬から、次年度の研修予算の大枠が決まる年末・年初までの期間が勝負の時期になります。訪問先の研修予算に組み込まれるように動かないと、来年度の受注はないと考えた方が良いからです。

 

そこで、ここまでの受注状況を振り返って、現状の営業体制の問題点を洗い出し、今後の業務に活かそうとすることが、毎年、この時期に打ち合わせを行う目的です。

 

 

 

 今年の、打ち合わせ(会議)のテーマは、提案書の内容を説明する際に「相手をこちらの話に乗せるにはどうしたら良いのか」というものでした。その理由は、研修という商品は、各社によって提案内容(カリキュラム)の大きな違いはなく、主としてその評価は講師の能力の差によることが多いからです。

 

 

 

冒頭、営業部長の大森さんから「提案書を提出にしたにも関わらず話が前に進まない。相手が提案内容に乗ってこない」という状況はよくあることだ。いつも、ここで商談が立ち止まってしまう担当者も多い。

 

そこで、今日は、その点に関わる皆さんが持っているノウハウやスキルを全員で共有し、来年度の受注を高めたいと思っているとの話がありました。

 

 

 

会議の進め方として、まず各営業担当に、このテーマに関わる自身の注意事項を挙げてもらい、次に、皆で今後の方策について話し合うことにしました。

 

 以下は、そのときの議事録から拾い出した主要メンバーの発言内容です。

 

  会議の皮切りに、ベテランの神田さんが、研修内容の説明と共に「他社での導入後の管理者の動きの変化など現場レベルの生情報や実際に起きた裏話」に重きを置いて伝えると語ってくれました。

 

続いて、入社8年目の中堅である大久保さんは「提案先の導入成果やこれまでの成功事例について丁寧に説明する。他社の多くが既に導入済みであることを強調する」と話してくれました。

 

 

 

中途採用で社歴は浅いが、結果を出している川口さんは「先方の担当者は、提案内容よりも、むしろ講師のレベルに一番関心を持っている。講師の評判の良し悪しは、リピートの有無、その継続期間にハッキリと表われてくる。だから、講師のこれまでの指導実績を伝えることで研修の信頼性をアピールしている。キャリアのあるベテラン講師が揃っていることこそ、当社の最大の強みでもある」そこをシッカリと伝えている。

 

 

 

全員の話を一通り聴き終えて、次のように大森部長は語りました。

 

皆の話を聞いていると、“売ろう売ろうの気持”が強過ぎて、先方の話を良く聴いていないのではと思えてならない。当社の営業がもう少し勉強しなければならないことは、取引先の要望は何処にあるのか。それをシッカリと探ることである。その点を、よく確かめた上で商談を進めないから話が行き詰まるのではないか。

 

相手がこちらの話に乗ってこないのは、提案を無理に押しつけようとするからである。そのようなやり方を提案営業と誤解している限りは、数字は取れない提案内容あるいは提案手法がワンパターンになっていないか。

 

 今日は、その点について、皆でもう少し突っ込んだレベルで議論して欲しいと思う。との話がありました。

 

 

 

 「鶴の一声」という言葉があります。職場内での話合いや会議の場で、メンバーの意見がバラバラで“議論の方向性が定まらない”“肝心な論点に話題が至らない”ことは良くあることです。そんな時、リーダーとして「私はこう思う。こう考える」と自身の考えを軸に、部下の意見を調整し、まとめることは上長に求められる重要な役割だと思います。 

 

 そもそも、誰しも自分が考えたことのないことは言葉にならないものです。この会社の営業もそうですが、ほとんどの方が自分の仕事で手一杯、周りのことを見る余裕もなく、頑張ることを頑張るだけの毎日になっている。「どうすれば、自分の職場全体がレベルアップできるのか」そんなことは考えたこともない。それは、上司が考えることと思い込んでいる。それを考えたことのあるメンバーなどいないのが現実です。

 

一方、上からすると、会社の一員として仕事に対する問題意識が足りない。会議の場で前向きな意見が出てこないと思っている。皆がもっと「職場全体」という見方で仕事をして欲しいと嘆いています。

 

 メンバーの頭がこのような状況では、彼らにポジティブな発言を期待しても難しいでしょう。

 

 

 

会議の方向性が見えない時、問題解決の方針なり、自身(上司)の考えを伝えることこそ、リーダーとしての役割(仕事)に他なりません。

自ら、納得性のある意見を出し、メンバーと話し合い、意見交換・調整を通して職場をまとめる。マネジメントの基本として、極めて当たり前のことのように思います。

 

ところが、実際にこのことを実行している上長は少ないと思います。何故、それが出来ないのか。その最大の理由は、リーダーとしての考えや方策が固まっていないからではないでしょうか。

 

 

 

  ▶ 関連項目: 自身の考えをまとめる力を磨く