上司力のポイント その4  部下の信頼を得る

  部下との関係がギクシャクしているような部署では、大抵、下は上司の仕事ぶりに不満をもっています。口にこそしませんが“上役として信頼できる”という関係ではないと思います。

現場が困っているときに「決めてくれない。必要な判断をしてくれない」というのは上に対する大きな不満のひとつです。「指示の内容がはっきりしない。具体的な説明が無い」と言うこともあるでしょう。ところが、そんな時でも上の方は、自分はチャンとやっていると思いこんでいます。完璧とは言えないまでも、自分なりに具体的な指示をした。細かな点まで注意したと思っています。自分にできる範囲内で考えて判断したと言います。

しかし、そこの理解に部下との大きな隔たりがあることに気付けません。

その食い違いが上下の信頼関係を損なう大きな原因のひとつだと思います。

 

携帯電話用の通信塔や屋外アンテナの設置を専門に行う工事会社では、工事の遅延が近年大きな問題になっていました。まず、工事が遅れると当初の見積もりを越えた出費がかかります。当然、利益率が下がり儲けも少なくなります。その一方、発注元への請求ができず、入金が遅れ資金繰りが厳しくなるという問題も重なってきます。

そこで、その会社では、工事部門の工事課長(彼らの下に、いわゆる現場監督と呼ばれる、いくつかの現場工事を直接監督する担当者がいる)を集め、当初の計画通りに工事を終えるよう厳重に注意をしました。

 ところが現場には現場の事情があります。夏場のゲリラ豪雨や突発的な強風など、大きな事故になりかねない日は、工事は中止せざるを得ないからです。天候によって予定通りに工事ができない日が多くあるのです。

現場の意見としては、不可抗力によるもので致し方が無いというのが大半の声でした。

しかし、そんな中でも、100%とは言えないまでも、予定期日までにほとんどの仕事を終えている工事課長が何人かいました。彼らは、数週間先までの工事日程と長期の天気予報を見比べながら、小まめにスケジュール調整を行っていました。日数のかかる大型工事や事故の危険性のある工事を軸に確実にして、工事計画表の内容を臨機応変に変えていくような指示を個々の現場に出していたのです。

 工事案件の優先順位を明確にし、それらの重点管理案件を優先して実施する工事スケジュールに毎週組み替えていました。いつでもできる小型案件や危険度の少ない工事は、その間に埋めていくようなやり方にしていました。他工事の進み具合や兼ね合いをみながら、工期が遅れないように工夫をしていたのです。

 その一方、工期後れの現場が多い工事課長は、当初に決めた月次の工事計画表通りに、できるだけ工事を進めようとする人達でした。彼らの言い分は、チョコチョコと工事スケジュールを変えると外注先を含め現場が混乱するので、却って工事が遅れると言うことでした。

 そのような彼らも、会社からの指示もあって、現場の担当者間で話し合って「できるだけ工事日程の調整をするように」との話を現場にしていました。ところが、実際には掛け声だけで自身から動くことはしません。

工事日程の変更や調整は、外注先の対応能力や取引先への交渉事のような問題もあり、現場監督レベルの担当者同士の話し合いだけで解決できる問題ではないのです。

 上司が陣頭指揮を執って、トップダウンで工事スケジュールの内容変更を決め、細かな内容の確認を徹底しなければ巧く動かないことです。

正に、上司のリーダーシップや指導力が問われる仕事だったのです。

 

この会社の工事課長さんのように、自分がやるべき仕事にシッカリと関わらず、自身では“やっているつもり”“できているはず”と思い込んでいる上司の人たちが多くいます。残念なことに、本来、自身がやらなければならない仕事を部下に押し付けている方です。

例え、下に任せたとしても、その動きを良く見ていて、拙い処をフォローし足りない点するカバーするのが上の仕事です。それでこそ、始めて上下の絆が生まれます。

まして、上司としての仕事を押し付けて、それを下が上手くできないと「どうしてできないんだ。もっとシッカリやれ」と責めるようでは、とても部下の信用は得られません。

 

 昔から、上司の動きから眼を離す部下はいません。彼らの一挙手一投足を良く見ています。下の人事考課を怠る上司はいても、一瞬たりとも上の評価をサボる部下いないと言う話があるくらいです。

このような流れもあって、上司がやろうとしないことは下もやろうとしません。上が上手くできないことは部下もパーフェクトにやろうとしません。下は、上司の動きをしっかりと見ています。

自分から動こうとしない上司の言うことは一所懸命にやっている振りをします。自分のことしか頭に無い上役には目の届かない処で手を抜きます。このように下の者は上の様子を見て動きます。

つまり、部下の動き方の良し悪し、仕事のスピード感の有無は、下から「どれくらい信頼されているか」上司としての仕事の実行力にかかっていると言えるでしょう。部下の仕事振りは、まさに上司力の鏡です。

 頼れる上司には、下は自ずとついて行きます。信頼できる上役だからこそ、その指示に従って動くのです。

 

( 平成27523日 )          © 公認会計士 井出 事務所

 

 ▶ 関連項目:管理者に求められる「戦略思考」と「判断力」