不言実行を期待する限り、当たり前のことはできるようにならない

 

「ゴチャゴチャと細かいことを言わずに自分で考えてやる。イチイチ屁理屈をこねずに黙ってやる」未だに多くの会社の現場で、よく耳にする上司の言葉です。とかく日本人は部下に不言実行を期待しがちです。

ただ、それが本当に望ましいことかどうかは別の問題です。 

何も言わず、自分の頭で考えて仕事ができる人など極めて稀です。逆に、不言実行を求めるが故に職場内の仕事のやり方がバラバラであったり、仕事のレベルがマチマチになっている状況をよく見かけます。

ツベコベいわずに黙って動く。それを部下に望むと、彼らは必ずと言ってよいほど、自分勝手な動きをするようになります。上司は、何も言わずとも周囲の動きを見て、周りとの調整をしながら動くことを期待しますが、彼らは逆に自分のやり方、スタイルにこだわって、自分の都合、ペースを優先します。

また、細かな注意事項、大切な約束事や決まりごとをスルーすることも間々あります。

それ故、不言実行で仕事をすることを期待すると、結局その人任せの仕事その人次第の仕事になってしまうのです。まして、工夫をして仕事するような、新しいことにチャレンジしようとはしません。

これでは、組織的な動き、会社業務のレベルアップは期待できません。

 

ホンダの創業者である本田宗一郎氏は、社長時代「不言実行は不言不実行に通ず」といって、部下に有言実行を求めたそうです。

要は「何も言わずに黙ってやる」というのは「目標を持って仕事をしているのか。どんなテーマを持って仕事をしているのか。何に向けて頑張っているのか」わからないと言うのです。部下に不言実行を求めると、実際、彼らが何をしているのかわからない。それが彼の考え方でした。

確かに、仕事を有言実行という仕組みにすれば、部下がどんな目標を持って仕事をしているのか。どのようなテーマに取り組んでいるのか。何に注意して仕事をしているのか。彼らの頭の中がわかります。仕事に対する考え方や取り組み方がわかります。

考えてみると、有言実行という言葉には「何かしらのテーマや目標を持って仕事する。何かを意識して仕事をする。自分の頭で考えて仕事をする」という意味があります。それに加えて、いち社員として「自らの発言と行動に責任を持つ」という意味合いもあります。

 

色々な会社をお手伝いさせていただいていると、多くの会社で、基本的なことでありながら徹底できない仕事のやり方、進め方が少なからずあることを痛感します。

「今更、イチイチ言わなくとも」と思うような初歩的なことができません。

今週のスケジュールを確認し、やるべき仕事の内容をシッカリと頭に入れる。先を見て動く。前倒しに仕事を進める。仕事にメリハリをつける。

どれも、誰もが出来そうでできない、当たり前の仕事のやり方、進め方です。実際、このような当たり前のことができていない会社がほとんどではないでしょうか。

この他にも、メモを取る。注意や確認を怠らない。大切なことは必ず報告する。提出物の期限を守るといったことがあてはまるかもしれません。

何処の会社にも、こういう社内での初歩的な仕事の習慣が身に付いていない社員が必ず何人かいるものです。日々、頭を使って仕事をしている人と考え無しに動いている人がいるとも言えるでしょう。

会社の業務レベルは、現場の一人一人が、誰にでもできるようなちょっとしたことを心掛けることで違ってきます。そのことを、経営者の方も上司の方も良く考えるべきだと思います。特に、優秀な人材を確保するのが難しい中小企業は、このような仕事の基礎を現場に徹底することが大切です。

 

一見簡単そうで、なかなかできない基本的な仕事のやり方を部下に叩き込む。当たり前のことをできるようにする。その際に一番有効な方法が有言実行という仕事の仕組みだと思います。その狙いを一言で言うと「自分の言葉に責任を持つ」ようにすることです。

月初の月例会や週明けの会議の場で、自ら「今月や今週の目標」を発表する。「自身のチャレンジテーマ」その言葉を口にさせることが良いでしょう。自分の口から具体的な言葉を発することで責任を自覚せざるを得ないようになります。そうすれば、自身の意識が高まり、自分の仕事の意味を考えるようにもなります。

有言実行という仕事の仕組みは、見方を変えれば、メンバー個々の仕事のテーマを明らかにすることでもあります。日々、何かしらテーマを持って仕事をする。何かを意識して仕事をする。仕事の注意事項をシッカリと頭に入れる。これらは皆、頭を使って仕事をする習慣をつけることに他なりません。

このように有言実行をキーワードにして、部下の意識を高めていくことが部下指導のひとつの原則だと思います。ひいては、それが職場の業務レベルをアップすることにつながっていきます。

 

「嘘から出た真」という諺を皆さんご存でしょう。勿論、口にした言葉の全て、全員の言葉が、全て嘘ではありません。でも全部が本当のこと、現実のことにもなりません。

ここまで書いてきたことは、仕事に関わることですから、部下の言葉が嘘ばかりでは困ってしまいます。でも少なくとも、何も言わないよりは何か言葉を発した方がどんな仕事にも何かしらの効果がありそうです。

だからこそ、有言実行という、当り前の仕事の仕組みが求められるだと思います。

 

( 平成26123日 )          ©公認会計士 井出事務所


► 関連項目:  頭を使って仕事をする