管理者に求められる「戦略思考」と「判断力」
これまで二回、受注業や請負業の現場監督を例にして「信頼される上司」や「変化に強い現場を作れる現場リーダー」の条件について、書いてきました。
彼らに共通して言えることは、いつも先の状況、回りの動きを読んで仕事をしていることです。必ずと言ってよいほど“見通し”を持って動いている。何故ならば、場当たり的な考えで動いていては通用しない。その場しのぎの思いつき的な対応では望ましい結果は得られないことを良く知っているからです。
結果を出せる管理者は状況判断に優れた人であり、先を読める人でもあります。どのような仕事であっても、長いことその仕事をしていると何かしらの勘が自然と働くようになるものです。多くの場合、それが、その仕事のノウハウであることに間違いありません。
通信系工事会社の工事課長である成田さんも、自分の担当案件の管理について肝に命じていることがいくつかあります。
① 受注額が5千万円、工期が3ケ月以上の工事の進み具合を最重点に
チェックし、完成予定期日までに確実に工事を完了する。
そして当初の実行予算の範囲内で工事原価をおさめること。
* 工期が伸びると、利益が確保できないばかりか、請求できないため
会社の資金繰りに悪影響が出る
② 工期が一週間以内の案件は、できるだけフレキシブルに工事スケ ジュールを組む。無闇に早く、スケジュールを確定し、仕事を固定し
ないようにする。
③ 毎週、木曜日の午後に「工事管理会議」を開き、翌週の工事スケ
ジュールを調整する。特に、既定のスケジュールを変更する場合
(案件)は、できるだけ早く、その旨を現場や外注先に連絡する。
④ スケジュール調整の無理が利いて施工技術の高い外注先の囲い込みを
進める。そのためには、自ら足を運んで取引条件の折衝に当たる。
上記、四つのチェックポイントが成田さんの工事管理の基本戦略です。
このように基本方針が明確に固まっているからこそ、フレキシブルな対応ができる工事体制が作れるのです。

どのような業種であろうと、仕事のできる管理者には、共通する二つの特徴があるように思います。
ひとつ目は「どうすれば最も効率的に職場全体の仕事を進められるか」という「戦略」を立てて動くことです。それ故「どの仕事が一番大切な仕事なのか。手間がかかるのか」「どの仕事を最優先に進めるべきなのか」と言った頭を使って仕事をする思考回路が働きます。
彼らには、一ヶ月から二ケ月くらいの先までの仕事の見通しがあります。だから、ちょっと長いスパンで見た“今月の重点業務”といった仕事のツボを絞り込むことができます。
「何故、その仕事に重点的に眼を光らせ、スケジュール管理を徹底しなければならないのか」その理由が明らかです。採算性を核に、職場全体のバランスの中で、仕事の優先順位の“判断基準” が頭の中でハッキリしています。
それが上司としての基本戦略です。そこの考えが固まっているから、素早い判断、確かな判断が出来るのです。
ところが往々にして、現場は一番大切なことは目先の仕事と思いがちです。確かに、飛び込みの仕事や急ぎの仕事はどの会社にもあることです。あるときは、単純に差し迫った納期かもしれません。各現場の担当者は自分の担当業務のことしかわかりません。そのことしか頭に無い人がほとんどです。
しかし、その判断が会社としての採算性というビジネスの大原則に合っているかというと、それと異なることが多いのも事実です。
とにかく目の前の仕事を最優先する。それだけでは、確かな判断とは言えないでしょう。
二つ目のポイントは、マメに現場の動きを確かめることです。「どの仕事が進んでいて、どの仕事が遅れ気味なのか」できる管理者は、現場の全体状況がよく見えています。もともと手間のかかりそうな仕事もあれば、従来通りのやり方で比較的スムースに進みそうな仕事もあるはずです。手の早い人もいれば、マイペースでしかできない人もいるでしょう。現場には現場の様々な事情があります。
残念なことに、現実には予定通りに仕事が進むことの方が少ないと思います。ですから、彼らは、好まざる状況への対策を含め、全ての状況をシッカリと頭にインプットしています。リスク管理の視点を怠ることなく、今の状況をシッカリと摑んでいる。だから、先が読め、変化への迅速な対応ができるのです。
職場の責任者として“先を読んで戦略的に仕事を進める頭”がある。
それが、できる管理者の条件です。
納期に遅れることなく仕事を終えられるノウハウとは、前倒し前倒しに仕事を進めること。そのために判断を早目早目に行うことです。そのために、彼らは、先を睨んで「時間のやりくり、人や外注先の手配、スケジュールの調整」ができるように、いつも神経を使っています。
( 平成27年6月25日 ) Ⓒ 公認会計士 井出 事務所
▶ 関連項目:
管理者に求められる「情報感度」と「戦略発想」