経理部長に求められる経営感覚

 ビルや建物屋内の電気工事業者である(株)山口電気の経理部長の溝口さんは、一風変わった経歴の持ち主です。彼は、元々一工事担当者として入社しました。

そこから、腕を上げ、現場監督になった人だったのです。

 当時から数字に強く、彼の担当する現場はどこもシッカリと利益を稼ぎ出せることで、社内でも一目置かれる存在でした。そこで、社長の山口さんは、溝口さんの手腕を見込んで、彼を現場から引き抜き、将来の幹部社員として育成すべく、経理部に転属を命じたのでした。

 

 実際に、溝口さんが経理部に入ってみると、現場によって「こうも工事の利幅(利益率)が違うものか」と驚きました。自分が現場監督をしていた頃から、他の人の仕事のやり方では「儲かる仕事も儲からない」とは薄々感じていました。ほとんどの人が成り行き任せで仕事をしていたように思えたからです。

  自身が現場ごとの伝票数字を集計し、その内容をチェックする立場になってみると、各現場監督の余りの採算性に関わる意識不足やコスト意識の足りなさに驚かざるを得ませんでした。

  電気工事を含め、工事・建設関係の受注業(IT等のシステム関連業も同じ)は、最初に決まった受注額ありきでビジネスが進みます。

  つまり、会社が利益を出すには、当初の見積原価を如何に守るか、抑えるかがポイントになります。ところが、現実の現場は往々にしてその真逆の動きをします。

 

  そもそも受注した仕事(工事)が予定通りに進むこと自体がそう多くはありません。特に、大型物件はゼネコンを含め、様々な会社が一緒に仕事をするので、一つの工程に遅れが出ると、その後工程を請け負う会社にも影響が出てしまいます。ですから、多くの現場リーダーの頭は、とにかく自社の完工予定日に工事を終わらせることにしか向いていません。「いざとなれば、無理な突貫工事もやむを得ない」という考えが先に立ちます。だから、無理に人手を投入してでも仕事を予定日までに済ませようとします。そこに「コスト管理」とか「採算性」といった意識は全く無いと言っても過言ではありません。

 

 このような一般的な業界慣行を払拭するために、山口電気では早くから工事ごとの実行予算管理制度を導入していました。しかし、この現場別の「採算管理の仕組み」も事後的な結果(原価額・利益額・損失額)がわかるだけの仕組みにしかなっていませんでした。

  つまり「どうすれば儲かる現場になるのか」その答えを出す方法に、実行予算が活用できていなかったのです。それが、この会社のトップの最大の悩みでした。実は、溝口さんの経理部への配置換えは、この辺りの問題を改善すると言う経営サイドの大きな狙いがありました。

 

  溝口さんは、かねてより「現場監督のコスト意識の向上」といった曖昧な手法では、各人の採算管理レベルは上がらないと思っていました。会社としての、より具体的な工事原価の管理指針を明確にし、その上で実行予算の重点管理を実施すべきとの考えを示しました。

   そして、溝口さんが経営会議で工事部門(現場)に提案した内容は

 

   受注額、1,000万以上の大型物件について、以下の2点を重点管理項目

    にし、その内容を徹底する

 

 1.工程の進み具合をチェックする工程管理表の内容の具体性を高める

  

   ⑴.工事予定(スケジュール)表による工程管理を徹底する。

   ⑵.工程管理区分(作業内容)を「大区分・中区分・小区分」といったように、

     より明確にし、その重点管理作業を具体的に示す。

   ⑶.毎週、各工事の進行度合いをチェックして、まめに次週の工事内容

     (スケジュール)を調整・変更する

 

 2.受注額に対し、12%の利益が確保できるよう、工事原価の明細を

         明らかにする

 

  ⑴.受注提案時の積算額をベースにして、利益が確保できるよう

     シビアに積算(見積)原価を修正する

    ⑵.特に、コスト・アップ要因になりやすい労務費については、金額では掴み難い

            ため(延)人工(にんく)で管理する。要は、物件ごとの人工管理を徹底する。

   ⑶.人工管理は、物件ごとの工程管理区分に従って実施する

 

    溝口さんのように、会社の数字の視点から、現場の仕事のやり方の良し悪しをチェックし、現状の問題点と改善点を指摘できる経理部長さんがいれば、トップは「どれ程、心強いか」計り知れません。

  経理の経理の仕事は、売上や費用といった単なる数字の集計業務だけではありません。「どうすれば、もっと利益が出るのか」このような経営感覚を持って、経理部長は数字を捉えて欲しい。それが、トップが経理に期待する役割だと思います。

     

( 平成29年7月10日 )               Ⓒ 公認会計士 井出事務所