対策会議と毎月の定例会議

 業績の低迷する会社に共通することは「どのようにすれば、もっとレベルの高い仕事ができるようになるのか。どうすれば、他社より優れた仕事ができるようになるのか」といった最も肝心な重要課題が、経営のレベル、もしくは部署単位の会議で話し合われていないことです。社内に多くの会議の場がありながら、現場の実行力を高めていくような前向きな議論が少ないように思えてなりません。

 

古紙の回収・分別というリサイクル・ビジネスを営む ㈱恵興行は、製紙原料となる新聞古紙・雑誌古紙・段ボール古紙を生産し製紙メーカーに販売する会社です。製品といっても回収した古紙を分別して、包装用の紐やビニールパック等の異物を取り除き、新聞古紙、ダンボール古紙といった製紙原料にすることが仕事です。

分別というと、一見簡単そうな仕事ですが、今日の日常生活には、テープのような粘着物や防水、フィルムで表面加工した物、感熱紙、複写用のカーボン紙等、様々な紙製品が溢れており、それらを回収した古紙から細かく正確に分別することは難しいことです。恵興行のような古紙リサイクル業の製品の品質(会社の技術力)は、取引先から示された異物混入率の基準値の高低で決まります。

ここ数年、この会社では、古紙製品の異物混入率がおしなべて同業他社より高く、そのため新規開拓もままならないという状況が続いていました。特に、埼玉工場の品質が低いことが社内で大きな問題になっていました。 

 そこで社長の塚田さんが埼玉工場を視察にいくと、まず現場の動きにキビキビとした雰囲気がありません。この業界でいうと、分別の技術の良し悪しは、テキパキとした手際のよさとスピード感に表れます。その緊張感は、混ざってはいけない異物に素早く気付く注意力にもつながっていきます。

 皆、一所懸命に仕事をしていますが、どこか気の抜けたようなダラダラ感が目に映ります。

 

次に、工場内の回収した古紙や什器類の整理状況も大きなチェックポイントです。押しなべて、品質管理の高い工場は新聞の回収ヤード、段ボールの回収ヤードというように区分けされ、整理整頓が行き届いていますが、埼玉工場は回収古紙の品種があちこちに置かれおり雑然とした雰囲気がありました。これでは品質が低くなるのも仕方がないと思い、工場長の江田さんに業務管理の状況に尋ねると「工場が狭いために、再生用紙別のヤードが十分に確保できないこと。また、古紙がランダムに搬入されること。従業員のレベルが低く、(混入してはいけない異物等の)注意事項の徹底が難しいこと」等の答えが返ってきました。

毎日の始業前に朝礼は、新聞古紙・段ボール古紙といった毎日の「品種別の生産目標」を指示するだけの簡単な内容で、最も重要な品質管理に関わることは、わかりきった注意事項なのでスルーしていたのです。その点について、塚田社長が突っ込むと「それらの話を始めると、どうしても話が長くなって残業時間が増えてしまいます」との言葉が返ってきました。

また、毎週週明けに、作業員のリーダーを集めて定例の会議を実施していますが、生産実績の報告会に終始し、品質管理の仕方の改善に議論の内容が及ぶことはありませんでした。会議に際して、実績報告の資料を作成・配布しても、議事録を作成することはしていませんでした。

そんな矢先、取引先のS社から、古紙製品に絶対に混ざっていてはいけない禁忌品(今回の場合はビニール・パックされたままの通販カタログが数点混入)と呼ばれるものが入っていたとの連絡を受け、塚田社長と江田工場長が呼び出され、厳重注意を受けると共に再発防止策の提出を求められました。「その対策の内容次第では取引停止も止む無し」との指摘を受けたのです。

 

 皆さんは、この恵興行の事例をどのように受け止めるのでしょうか。「何とだらしのない会社だ。まさに自業自得、取引停止は仕方のないこと」だと思うでしょうか。しかしながら、多かれ少なかれ似通った状況が、多くの会社に当てはまると思います。即ち、取引先からのクレームがあった時、その対応で済ませてしまい、根本的な解決策についての議論がなされない状況。もしくは、自社の製品の品質や業務内容・レベルに、そもそも問題があること気づいているにもかかわらず、その事実に前向きに対処できていない現実です。

* 今年の3月に、ある自動車メーカーで発覚した不正事件も、その背景には社内がこのような状況であったのではと推測されます。

 

その原因のひとつが、各部署や現場毎の毎月の定例会議がただの報告会になっていることだと思います。営業なら売上を伸ばす具体的な作戦会議。工場ならコストダウンを目指す工程改善会議。あるいは、クレーム対策会議を起点とした全社的な業務改革会議といった、前向きにビジネスを進めるための「対策会議」「作戦会議」の場がありません。それが、数多くの中小企業の現実でしょう。会社の将来を考える、業績を改善させることは、皆社長の仕事と決めてつけている。日々の仕事をこなすだけのレベルでは会社の成長は期待できません。そのような現状から脱皮しない限り、会社の成長は有りえないと思います。

何処の会社でも「達成すべき目標」や「改善すべきテーマ」があるものです。それらの仕事を成功させるためにも社内に「対策会議」「作戦会議」といった話し合いの場を定例会議の他に、別途設けるべきだと思います。

 

( 平成28722日 )       Ⓒ 公認会計士 井出 事務所

 

 ► 関連項目: 会議対策と対策会議

         抽象企業の定例会議

         戦略会議と作戦会議の活用法