PDCA(サイクル)を知らない世代
数年前、ある大手メーカーの研修にいった時のことです。受講生との話のやり取りの中で、私が「PDCA」と言う言葉を口にすると、彼から「PDCAって、何のことですか」と訊かれました。ちょっと違和感を感じたので、他の受講生に「PDCAの意味がわかる人」と質問すると、約半数くらいの方が、その言葉を聞いたことがないと答えました。
さて、皆さんは「PDCA」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。あるいは、その意味を説明できるでしょうか。
PDCAの意味を一言で言うと、職場の「(業務)改善」もしくは「問題解決」の基本的なやり方のことです。正確には「PDCAサイクル」と言い「Plan (プラン)⇒Do(ドゥー)⇒Check(チェック)⇒Action(アクション)」という一連の流れを通して、仕事の内容をレベルアップしようとすることです。
プランは「計画」・ドゥーは「実行」・チェックは「点検」・アクションは「行動」とも言います。以下、そのやり方の流れを、簡単に示すと
① Plan(プラン)の段階は、職場の問題点について一度皆で話し合って
「こうしたら上手く行くかもしれない」という具体的な解決策(試案)を
考える。
② Do(ドゥー)の段階は、上記の解決策を、一ケ月試してみることです。
③ Check(チェック)の段階は、一ケ月試してみた解決策の結果の良し悪し
を点検し、その内容から、そのやり方の「不都合・不出来・不手際」と
いった新たなる問題点を洗い出すことです。
加えて、ここが最も重要なことですが、前回、試してみた解決策に
更に手をくわえた新バージョンの解決策を検討します。
④ Action(アクション)の段階は、新バージョンの解決策を、更にもう一度
一ケ月試してみることです。
先ほど、研修の場で、ちょっと「違和感を感じた」と書きました。どうしてかというと、それはメーカーの社員であっても、最早「PDCA」という言葉を聞いたことが無いという現実です。それくらい、仕事の進め方に関する基本的な知識が足りないのが、今の日本の会社の仕事のやり方の実情だという意味です。
どれくらい基礎的なことかと言うと、一昔前の製造業では算数の九九レベルのことと思っていただいて良いでしょう。工場の現場レベルでは製品の品質管理のベースになる極めて基本的な言葉です。モノ造り日本の現場を支えてきた仕事に対する考え方のイロハのイと言っても過言ではありません。メーカーなら、技術系の仕事だけでなく、営業や経理、総務などの担当者レベルまで新入社員研修の場で教えられることです。
コンサルの現場では“時代遅れの仕事のやり方・進め方。基本的に十年前と変わらない業務内容。現場の実行力。職場のメンバー個人の能力や人海戦術に頼った仕事。社内の職場なり現場が、自から仕事をレベルアッップしようとする空気感がない”という現実に直面することは珍しいことではありません。企業研修の現場でも、同じような職場の問題点が数多く浮かび上がってきます。
その原因を突き詰めていくと、どうも現場で働いている一人一人が「仕事のレベルアップの仕方がわからない」ということが本音のようです。
何故ならば、それはPDCAサイクルのような「現場の実行力アップ」や「業務改善」の基本的なやり方を知らないからではないかと思います。
その現実が、場当たり的で、成り行き任せ的な仕事のやり方に現れていると思います。誰しもが目先の仕事しか頭にありません。だから、今日という一日が明日に繋がっていかないのです。
「そんなことはない。会社の発展・成長のために、当社では、毎週、現場レベル・会社レベルでは毎月会議をやっている」という現場リーダー・経営者の方もいるでしょう。しかし、その一方、それだけの時間を使っていながら、いつまでたっても“職場や会社の問題点が解決できない。営業でいうと提案力が無いみたいな現場の実行力が低い”といったドロ沼状態から抜け出せない会社が多いのも事実でしょう。「色々と手を尽くしているがなかなか良い方向に進めない」と感じている社長さんも沢山いらっしゃいます。正に、日々の努力が空回りしている状況です。「口先だけの反省。建前だけのやる気」では、如何なる問題も解決できません。その場しのぎの対処療法の連続では物事は確実に前に進まないでしょう。
では、このような悪しき状況から、どのようにして抜け出すのか。如何にして、今の職場の問題点を解決するのか。その手法が、PDCAサイクルを着実に実行することに他なりません。
このHPの「職場のレベルアップのヒント」は、実際に当事務所がお手伝いさせていただいた事例(社名は架空のものに変更しています)を基に書いています。各コラムとも「PDCAサイクル」と言う言葉を使って、説明はしていませんが、実際の現場では、月に一度ペースで業務改善会議を開いて、この手法を実践しています。
見方を変えれば「失敗は成功の元・反省材料を拾う」という極々当たり前のことを、各社の現場に徹底しているだけのことです。「七転八起」「継続は力なり」とは誰もが知っている言葉ですが、この当たり前のことを根気強くできる会社はそう多くはありません。それが、できていれば、必ず業界内で「力のある会社」になっているものです。
( 平成29年4月10日 ) Ⓒ 公認会計士 井出 事務所